青春の輝き(1)
「またドタキャンかよ~」 スマートフォンの画面を一瞥し、サンジはハァアとため息をついた。 開いたメールの文面には「稽古が入った。悪い」と件名すらない短い一文が記されていた。 「しょうがないんだろうけどよォ」 これだけ立て続けに約束を反故にされたのでは、さすがのサンジも堪...
「……こんなの、マジで効くのかよ」 手にした小瓶をまじまじと見つめ、サンジは独り呟いた。 事の発端は、上陸した港町で食材を探している時に入り込んだ路地にひっそりと店を構える露天の店主に声を掛けられたことから始まった。 *************************...
「あんた、マジでしつこいな」 しんとしたラウンジにサンジの呆れた声が響く。 今日はメリー号に不意の来客があり、当然のことながら夕飯は飲めや歌えの大宴会となった。 存分に腹を満たしたクルーは満足げに眠りに就き、ラウンジは後片付けをするサンジと その客人だけになった。...
「よぉ。ジャマしてるぜ」 無人のはずの自分の執務室へ入ると、すらりとした金髪頭の男がソファーで寛いでいた。 「…貴様、どうやって入った」 「正義」のコートをはためかせた男は不機嫌を隠さずに忌々しげに吐き捨て、ドアを閉めた。...
「…貴様は何度同じことを言わせれば気が済むんだ。ポートガス」 バスローブ姿で横になっていた男は不機嫌さをあらわにして、背後に突然現れた気配に振り返りもせず言い放った。 「いやァ、起こしたら悪いかなと思って」 炎から生身の身体に戻りながらエースはへらりと笑った。...
「なァ。教えてくれよマルコ。おまえは一体何が欲しいんだ?」 宿の一室で、まだ少し若さを残した声が懲りずに問いかけていた。 「だから特にねェっつってんだろうが」 「またまた。海賊がそんなに無欲でどうすんだよ」 もう何度となく繰り返される会話に、マルコはうんざりしていた。...
「遅いぞ、マルコ!」 部屋のドアを開けた途端に耳に飛び込んだ声は、いつ聞いても賑やかだ。船の上ならまだしも、静かな宿の中では騒音になりかねないそのボリュームに、マルコは眉をひそめた。 「うるせェよい。そんな大声じゃなくても聞こえてる」...
「何かしら?」 本日の業務を終えて執務室に戻ったたしぎは、見慣れない箱が机の上に置いてあることに気が付いた。 手のひらより少し大きめのそれは薄いベージュを基調としてパステルカラーの模様がちりばめられており、上品に掛けられた茶色のリボンには「Happy White...
穏やかな寝息を聞きながら飲む酒は、いつも以上にちりちりと舌を焼く気がした。 逢瀬とも呼べない夜は、これで7度目だ。初めは2か月おきぐらいだったのが、彼の繁忙期を抜けると同時に1ヶ月おきになっていた。 広いベッドに一人で眠るマルコに視線を送る。すぅすぅと規則正しく吐き出され...
焼きたてのパンとコーヒーの香り。そして何かを焼く音。カタギの世界の朝は、こんな感じなのだろうか。海賊稼業とは程遠い何ともいい雰囲気で、泣く子も黙る四皇は目を覚ました。起き上がって簡易キッチンの方を見ると、昨晩散々抱き潰したはずの青い鳥が、平然と朝食を準備していた。...
ふと見上げた時計は、すでに深夜と呼べる時間を指していた。 「……寝るかねい」 マルコは目頭を押さえ、没頭していた本にしおりを挟んでテーブルに置いた。傾けた首から、こきりと小さな音が聞こえる。一体何時間同じ姿勢でいたのか見当もつかない。だが数十分でも数時間でも、時間が過ぎてく...
大海原にぷかりと浮かんだレストランというのは、そうそうお目にかかるものではない。ましてやそれが屈指の名店となれば尚更だ。元海賊船の船長兼コックという奇妙な経歴を持つこの店のオーナーの腕は確かなものだし、自分のような強面(自覚はしているのだ)が訪れてもそれ以上に屈強な男たちが...
「癒しの……アロマリラクゼーション?」 修行中のレストランからのいつもの帰り道、その看板は唐突に飛び込んできた。 「マッサージかぁ……」 実家のレストラン「バラティエ」を継ぐために調理の専門学校に通い、そのままジジィの知り合いのレストランで修行をしてもうすぐ3年。この春に...
「よ、サンちゃん♪」 男臭い喧騒にまみれた酒場でひときわ目立つ金髪が、弾かれたように顔を上げた。 「・・・エース!」 くるりと巻いた眉毛が特徴的な顔に黒スーツ。いつもどおりの隙のない姿の人物が嬉しそうに返事をした。 「久しぶりじゃねーか!エースんとこもこの島に停泊してんのか...
「お。このコゴミはいいなぁ」 上機嫌で山菜を採っては腰にぶら下げた籠に入れていく板前を、破戒僧は後ろから眺めていた。 まだ夜も明けきらないうちに「おら、山菜採りに行くからついてこいクソミドリ」と叩き起こされ、青鼻先生の所有という山へ連れてこられた。...
「あんた、バッカじゃないの!?」 サンジを「お試し」で抱いた翌日、ゾロはナミに思いっきり罵倒された。 「普段どおり」を装っていたサンジだったが、明らかに顔色が悪く足元もおぼつかない様子はどのクルーにも「何かあったな」と勘付かせた。...