top of page
執筆者の写真丘咲りうら

春筍-しゅんじゅん-

「お。このコゴミはいいなぁ」

上機嫌で山菜を採っては腰にぶら下げた籠に入れていく板前を、破戒僧は後ろから眺めていた。 まだ夜も明けきらないうちに「おら、山菜採りに行くからついてこいクソミドリ」と叩き起こされ、青鼻先生の所有という山へ連れてこられた。 昨晩2回しかさせてくれなかったのはこういうことかと変なところで納得をし、渋々ついてきたというわけだ。

「セリがあるぞ。浸しにしてくれ」 「ばかやろう、それは毒ゼリだ。セリはそんな太い茎にゃならねェ。縦に割ってみろ」 言われたように、セリにしては立派すぎる根茎を縦にすぱんと斬ると、青竹を縮めたような節が出てきた。 「同じところに生えるから間違えやすいんだ。てめェに山菜採らせると毒ばっかり採りそうだから、竹籠の材料でも採って来い」

にやんと笑い山菜採りへ戻る板前をこの場で押し倒したい衝動に駆られたが、確かにここには竹籠の材料になる竹がわんさか生えている。 すらりと伸びた竹をいくつか切り、適度な長さにしたものを縄で縛りひとまとめにすると、背負っている籠に放り込んだ。

「筍だ!ゾロ、鍬くれ」 少し興奮した声で声を掛けてきたサンジに、刀とは反対に差していた鍬をサンジに手渡した。 サンジの視線の先を見ると、確かに土が少しだけ盛り上がり、そこから筍が顔を出していた。 「時期的には終わりのはずなんだけどな。ここは気温差が激しいからたまに生えるって青鼻先生が言ってた」 ゾロから鍬を受け取ると、その隆起の両側をざくざくと掘り、ある程度顔が見えたところで奥側に一気に鍬を突き立て掘り起こした。 「これはいい筍だ。さァて天ぷらか木の芽和えか」 うきうきと考えながら当たり前のようにゾロが背負っている籠に筍を入れると、サンジはそのまま2本目を探し始めた。 「よく見つけるな。おれにはわからねェ」 筍は土から顔を出すか出さないかぐらいの大きさでなければ美味しくない。 それを見つけるのは至難の業だ。 「どこにでも生えてるわけでもねェよ。竹の根に沿ってそっから生えんだ。だから根を追っていけば・・・おら、2本目みっけたぞ」 嬉しそうに鍬を持ってそちらへ向かう板前を見送り、ゾロは自分の作業に戻った。

「・・・っ!!!ひっ・・・!!」 あらかた材料を揃えた頃に、声にならない悲鳴が聞こえた。 振り返ると、サンジが鍬を抱きしめて固まっている。 「どうした」 ひょいと後ろから覗き込むとカタカタと震えながら視線をこちらへ向け、指は前方を指した。 「・・・あ、あれ・・・あいつ・・・」 指の先を見ると、倒木した木の中にうようよと蠢く白い塊が見えた。 「ただの芋虫じゃねェか。あいつは悪さなんてしねェ。無視してろ。そろそろ降りるぞ」

この男は虫が大の苦手なのに、何故虫の宝庫とも言える山へ入るのだろうか。 そしてそういう人間ほど虫に好かれたりするものだ。 山へ入ったときはまだ薄暗く気温も低かったので虫はいなかったが、山菜採りに夢中になっている間に日は昇り、生物の活動も活発になっていた。 当然行きよりも帰りの方が「やつら」に遭遇する確率は格段に上がる。

「ぎゃぁああああ!ゾロ!取ってくれぇえ!!」 ゾロはサンジの肩口に降り立った脚の多い虫をひょいと払いのけ、ぐいと肩を引き寄せた。 「ガタガタうるせェ。くっついてろ」 逞しい腕に抱き寄せられ、サンジは思わずゾロの腰に手を回しきゅぅと抱きついた。 自分よりは華奢だが大して背丈は変わらない板前にまとわりつかれ、歩きにくいことこの上がない。 虫に遭うのが怖いのであれば、山菜なんぞ行商から買えばいいだけの話だ。 だが。 ―――まァ、悪かねェな。

行商任せにせず敢えて自分で乗り込むあたりが、職人根性というべき部分だろう。 肩に回していた手を腰に滑らせ、どれ接吻のひとつでもと顔を寄せたところで、2人の横手に手のひらサイズの蜘蛛がすすっと降りてきた。

「―――――――――っ!!!!」

ゾロは再び声にならない声をあげるサンジを抱きしめ、抜刀し蜘蛛の糸を切ると、行き場をなくした蜘蛛の体を器用に刀身に乗せて草むらへ下ろした。 「蜘蛛は殺生しちゃなんねェ」 カタカタと震えるサンジを抱きしめ、穏やかに呟いた。 そのぬくもりにサンジは安堵し、実は抜けそうになっていた腰をゾロの腰へとすがらせた。

しかし―――

「・・・てめェ、これァなんだ」 「・・・まァそのなんだ。茸(たけ)がな」 2人の間には、ゾロの陰茎が隆々とその存在を主張していた。 何しろ昨日は2発しかしていないのだ。足りるわけがない。 その状況でこんなに密着してしまえば、そうなってしまうのは仕方ないだろう。

「駄賃をくれるか?」 ぐいっと「茸」を押し付け、耳元でねだるように囁く。 見返りをもらえるぐらいは働いたはずだ。 「・・・っかやろ。帰ったら山菜のあく抜きだ」 ふいっと離れて、もうすでに見えている麓へと進む足がふと止まった。 「・・・あく抜きは時間がかかる。その間なら・・・くれてやってもいい」 それだけを言って恥ずかしげに歩を進める板前の後姿を満足げに眺め、破戒僧は後を追いかけた。

(おわり)

--------------------------

毎年義実家でたけのこ掘りをするんですが、当然竹林なので竹がいっぱい生えてます。 私が大好きなサイトさまに「破戒僧が日銭を稼ぐのに竹籠を編んでる」という設定のグラジパがありまして、竹林を歩きながらそれを妄想しちゃったんですね。 ちなみにサンジが腰につけてる竹籠も、ゾロ謹製です(´∀`*) グラジパの時代に虫が嫌いなんて言ってられないと思うんですが、そこはそれ。ソッチのほうが美味しいのでそのままにしましたw それにしてもグラジパは難しいです。 (2013.5.1)

0件のコメント

最新記事

すべて表示

待ち人、きたる

「あいつら、相変わらず容赦なく食いやがるなァ」 しん、と静まり返ったラウンジに、洗い物の音だけが響く。  「ま、作りがいがあるってもんだ。コック冥利に尽きるぜ」 サンジの誕生日パーティーが終わり、サニー号のラウンジには主役のサンジと見張りのゾロの2人だけが残っていた。...

間男ノススメ

「ここの船は賑やかだな」 ルフィに洗濯物の取り込みを手伝わせて失敗しているクソコックを傍目に昼寝をしていると、横に通りすがりのエースがやってきた。  「通りすがり」というのは比喩でもなんでもなく、本当にメリーの前を通りがかったので船尾にに小船をつけて上がってきたのだ。...

間男ノススメ 2

「何か1杯貰えるかな?」 メリーのキッチンに気配なく届いた声に、サンジは少なからず驚いた。 「エース!?」 おやつが終わって一息ついたクルーは、めいめい好きなことをして過ごしている。  いくらエースが気配を消しても、ストライカーで接近して乗り込まれるのだから、誰かしら気付く...

Comments


bottom of page