「何でこんなコトになっちまったんだろうなァ」
自分の膝の上で寝息を立てている緑色の短髪を眺め、サンジは改めて疑問を口にした。
ゾロの誕生日の昼下がり、おやつはグリッシーニに生ハムを巻いたりクリームチーズのディップを添えた。
4本並べたらゾロの誕生日だ!とゲラゲラ笑うクルーの笑顔を見て一緒に笑っていたのは、つい先ほど。
その後ゾロに「昼寝に付き合え」と甲板後方に引きずられ、枕に徹している。
「変な感じだよなァ。マリモとこんなことになるなんて」
ゾロとは決してウマが合う間柄ではなかった。互いの実力は認めているが、年にしても何にしても近すぎる互いの存在は同属嫌悪に近いものがあり、事あるごとに衝突していたのだ。
それが今では、押しも押されぬバカップルなのだから、サンジが疑問を呈するのも無理はないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あるときは身長で競い……
「身長はおれの勝ちだな。クソコック」
「あァン?1センチなんて誤差だ誤差。てめェそのブーツ上げ底じゃねェのか?」
「ンだとコラァ!ヤんのか!?」
「上等だコラ!」
「2人ともやめなさい!!!」
あるときは足の長さで競い……
「足はおれのほうが長ェな。短足マリモくん」
「あァ?少々足が長ェから何だっつんだ」
「そんな野蛮なことを言うからレディにモテねェんだぜ?」
「はッ、アホらしい」
「あァ!?今なんつった!」
「アホがアホなことをホザいてるっつったんだよアホクソコック!」
「上等だてめェコラ!表に出やがれ!!」
「ふふ。コックさん、ここは甲板よ?」
またあるときは筋肉量で競い……
「そんなに無駄に筋肉ばっかり鍛えてどうすんだ。ガチムチマリモ」
「てめェは筋肉がねェから、そんなひよわっちィ蹴りしか出せねェんだろ?」
「はァ?おれのこのしなやかな筋肉にケチつけんのかてめェコラ」
「あァうるせェ。鍛錬の邪魔だからどっかいけよクソコック」
「何でおれがメシの用意を外でしなきゃなんねェんだよ!てめェがこんなとこで筋トレやっからだろうが!」
「サンジーーー!!!腹減ったーーー!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
灰皿にタバコを押し付け、グリッシーニに手を伸ばす。生ハムを巻いたそれは塩加減も絶妙で実にいい出来だった。
「……この辺でやめときゃよかったのにな」
行儀悪くぽりぽりと齧りながら、サンジは再び回想に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風呂場ではナニの大きさで競い……
「……は、随分と慎ましやかなナニで」
「……ンだと?」
「まァ、こればっかりは鍛えようがねェからな。せいぜい場数踏んで精進しろよ」
「デカけりゃイイってモンじゃねェよ。おれのムスコはカタチといい色といい、完璧じゃねェか。てめェには神が創ったこの造形美が理解できねェだろうな」
「ハッ、童貞が」
「……っ!!ざけンな!!本気出したときのおれのムスコはすげェんだよ!」
「平常時がその程度で、勃ったからっつってそんなに変わるわけねェだろ」
「その程度って何だその程度って!おいウソップ!!おれとクソマリモのナニはどっちが」
「もうおまえらのご子息が人並み外れてご立派だってのは分かったから、おれを風呂から出してくれ……!!」
格納庫では持久力その他諸々を競い……
「……くっ!」
「は……っ、もう限界デスか?早漏マリモ」
「ざけんな。てめェのだって大概じゃねェか。おら、ガマン汁でヌルヌルだ」
「……っぁ!!くそ……てめェのクソテクなんかでイってたまるかよ」
「まァ、出したところで量も少なけりゃ飛距離も大したことねェだろうしなァ」
「は……ぁ!?てめェの無駄に太いだけのブツよりはいい仕事するぜ」
「言いやがったな。じゃァこのまま飛距離と量で勝負だ」
「は、負けたからって吠えヅラかくんじゃねェぞ……っ!」
「(ヨホホホ、若いってイイですねェ。ところでワタシ、いつまで標本のフリをしとかなきゃいけないんですかね……)」
それがさらにエスカレートし……
「……ん、ァ……は……っ!」
「ぐ……っ!締めンじゃねェよクソコック」
「突っ込んだ途端に暴発しなかっただけ褒めてやるよ……っ、エロマリモ」
「エロいのは……てめェだろう、が」
「ぁ……!くそ、そこはやべェっつってんだろうが!!」
「うるせェ、さっさとイっちまえ!」
「だれ、がてめェより先になんて……っ!んァ!!」
「……っ、エロい声出しやがって……!!」
「(何でゾロとサンジはキッチンで交尾するんだ?おれいつも医務室から出るタイミングを逃すんだ……)」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「勢いってこえェなァ」
まるで他人事のようにサンジは呟いた。
だからといって別に後悔するようなことになっていないのが、実に不思議だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最近の喧嘩と言えば……
「だァから、てめェがおれに勝とうなんて100万年早ェんだよクソミドリ!」
「あァ?おれがてめェに負けるわけがねェだろうが、アホエロクソコック」
「これだけは、てめェに負けるわけにはいかねェんだよ!!」
「こんな大一番の勝負に、おれが白旗を上げるとでも思ってんのかてめェは」
『『おれのほうがてめェに惚れてンだよ!!!』』
「何だ何だァ?おれはあいつらの愛の巣でも作ればいいのかァ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
くくっと笑ったサンジの揺れに、ゾロの隻眼が開いた。
「……何思い出し笑いしてやがんだ。クソコック」
「いやァ?人生どうなるか分からねェもんだなァってな」
「平坦だと面白くねェだろうが」
「違いねェ」
サンジは再び肩を揺らした。
起き上がったゾロが、サンジをその胸に抱きこみ、再び寝転んだ。
すっぽりと抱き込まれるといつも大きな獣を手懐けた気分になる。本人には言わないが、それもサンジの優越感をくすぐるファクターの一つだ。
「まだ晩飯まで時間あンだろ。てめェも寝ろ」
「おれァ、てめェのゴチソウを作らなきゃなんねェんだよ」
「夜は寝かさねェっつってんだ。今のうちに体力温存しとけよ」
「ばァか」
宴の準備まで、あともう少しだけ。
サンジはゾロのピアスをチリリと撫でると、ごそごそと動いておさまりのいい場所に落ち着き、ささやかな惰眠を貪るべく瞳を閉じた。
(おわり)
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グリッシーニはパンの仲間なので、手でちぎって食べるのがマナーです。
間違ってもポッ○ーみたいにぽりぽり食べちゃダメだそうです。
ゾロお誕生日おめでとう!
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