「あんた、マジでしつこいな」
しんとしたラウンジにサンジの呆れた声が響く。
今日はメリー号に不意の来客があり、当然のことながら夕飯は飲めや歌えの大宴会となった。
存分に腹を満たしたクルーは満足げに眠りに就き、ラウンジは後片付けをするサンジと
その客人だけになった。
「粘り強いって言ってよ」
「・・・ムダにポジティブだな」
もう相手にしてられないとばかりにサンジは洗い物に戻ったが、客人の話はまだ終わっていなかった。
「だからさァ、おれと付き合ってよ。悪いようにはしないって」
「だからなんでおれがあんたと付き合わなきゃいけないだよ。ルフィが聞いたら泣くぞ」
「ルフィはあの性格だ。兄貴が自分のとこのクルーと付き合ったぐらいで動じやしないさ」
「・・・なぁエース。あんたにはおれがレディに見えるのか?」
エースと呼ばれたテンガロハットに上半身裸の男は、その年齢にしては子どもっぽい仕草で
首をかしげた。
「なんで?サンちゃんはどっからどう見ても男だよ?ただとびっきりの美人だけど」
男に美人なんて形容詞を使うかよ・・・とサンジは小さくため息をついた。
エースが突如メリー号に現れたのは、そろそろおやつという時間だった。
ルフィは久々の兄との再会に大喜びし、クルーもそれを歓迎した。
夜には戻らないといけないというエースを引き留め、急ごしらえの宴を開催した。
再会を祝い、お互いの冒険の話を披露し、それはそれは楽しい時間だった。
サンジもくるくると働きながらも楽しんだ。
空気が一変したのは、皆が寝静まってラウンジにエースと2人になってからだった。
サンジの後ろをまるでヒヨコのようについて歩き、「好きだ」だの「付き合って」だの
「おれのモンになってよ」だのとしつこくしつこく言い寄ってきたのだ。
あまりのしつこさに何度も蹴りを入れたが、そこは悪魔の実の能力者らしく炎になってひらりとかわし、やっぱり何事もなかったかのように甘い言葉を囁き続けた。
どれだけ拒否しても罵ってもこの男には全く通じず、半ばサンジは諭すのを諦めかけていた。
「何でおれなんだよ。あんたルックスはいいんだからよりどりみどりだろうが」
「好きになるのに理由なんてないじゃん。おれはサンジがいいの」
真剣なんだかふざけてるのか、この男の真意は今ひとつ掴めない。
「おれはこの船を降りるつもりはねェぞ」
「だよねぇ。ほんとは掻っ攫って行きたいけど、それはさすがにルフィに怒られるしな。
でもさ、こうやって会いにくるって」
屈託なく笑うソバカス顔を一瞥し、手元を見る。
洗い物はもう残っていなかった。
タオルで手を拭き、小休止に煙草を口に咥えた。
その先にエースの指がとまり、煙草に火が点された。
「ほら。いつでもサンちゃんのために炎出してあげるよ?どこでだって料理できる。
一緒に遭難しても、おれ炎人間だから凍えたりしないよ?」
「ホストかよ。ていうか何付き合う前提で話進めてんだよホモ野郎」
「やだなァ、サンちゃん。おれゲイじゃないよ。バイだよ?」
「なおさらタチ悪ィ」
長く煙を吐き出しながら、サンジはとうとう匙を投げた。
「あーもうヤメだ。キリがねェ。もうすぐ日付変わるぞ。さっさと帰れよ」
こいつには何を言ってもムダだ。そう思っての一言だったのだが
「そう?じゃぁ貰うね」
何を勘違いしたのか、エースは一瞬の隙をついてサンジを壁へ押し付け煙草を奪うと、ぽかりと空いた唇を自分のそれで塞いだ。
「・・・んっ!・・・んん!!!」
サンジの抵抗などものともせず舌を捻じ込んで存分に口腔を味わい、サンジの身体からくたりと力が抜けた頃にようやく唇をひと舐めして離れた。
「・・・海賊は、欲しいものは何としてでも奪う」
先ほどまでのちゃらちゃらした雰囲気など一切感じさせない空気に、サンジは一瞬身体が動かなくなった。
「今のキスで4割ぐらいかなぁ。本気出したら、おれもっとすごいよ?」
元の雰囲気に戻りそういうと、我に返ったサンジの蹴りをひらりと交わして煙草を灰皿に置き、身を炎にしてラウンジの扉まで移動した。
「色々ごちそうさま。次会ったときは本気で口説くからね」
恐ろしいセリフを残して、エースは消えていった。
「・・・くそっ」
ずるずると床にへたり込んだサンジは、口を拭うつもりで当てた手をそこから離すことが出来なかった。
(おわり)
-------------------------- ついにやってしまいました!エーサンもの。 サイト開設にあたって再掲ばっかりじゃなぁと思い書き下ろしたら、ナチュラルにエーサンに← 続くのか続かないのか。私にも分かりません。 でもここからゾロが奪還したら、ロロノアさんの株は急上昇しますよねw タイトルはカンザキさんにつけてもらいました。ありがとう!
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