top of page
執筆者の写真丘咲りうら

時には泥のように (シャンクス×マルコ)

「遅いぞ、マルコ!」

 部屋のドアを開けた途端に耳に飛び込んだ声は、いつ聞いても賑やかだ。船の上ならまだしも、静かな宿の中では騒音になりかねないそのボリュームに、マルコは眉をひそめた。

「うるせェよい。そんな大声じゃなくても聞こえてる」

 言っても無駄だということは分かっていたが、シャンクスの声はそれほどまでによく響いた。テーブルの上にこれでもかと並んでいる酒を手に取り、ソファに腰掛けて半分ほど一気に煽る。決して度数が低くないそれはマルコの胃を焼き付けんばかりに刺激したが、これぐらいの刺激がないと酒を飲んだという気にはならない。

「今回は、モビーがいる海域から近かっただろう?」

 まるで飼い主に褒めてもらうのを待つ犬のような眼をしてシャンクスが笑う。

「前みたいに朝から晩まで飛び続けないと着かないような場所だったら、無視するつもりだったよい」 「ハハ。昔は夜通し飛んでそのままセックスとか普通だったのにな。もうお互い若くもないし、昔のような無理は出来やしないな」 「どうしたい。辞世の句でも読む気になったかい」 「冗談。人生これからだろ。風呂入ってこいよ。おれはそのままでもいいけど、押し倒したらおまえ蹴るだろ?」 「当たり前だ」

 残り半分の酒をぐびりと飲み干し、マルコはバスルームへと姿を消した。

 昔は部屋のドアを閉めた瞬間にベッドへなだれ込んだこともあったが、さすがに年を重ねてからはそのようにがっつくことも減り、セックスの前にギリギリの情報交換を交えた世間話をすることも増えてきた。それが老いなのか、余裕が出てきた故の行動かどうかの結論を出す必要はない。

 汗を流し、ある程度の準備をしてバスルームから戻ったマルコは、シャンクスの違和感に気が付いた。バスローブ姿でベッドにもたれ機嫌よく煙草をふかしているが、その"普通の姿"にマルコは勘が外れていないことを確信した。

「おい」

 シャンクス口から煙草を取り上げ、左肩を軽く押した。片腕とはいえ普段ならびくともしないその身体が、ぐらりと横へ傾いでベッドへと倒れ重く沈み込む。

「……は、は。やっぱおまえの前じゃダメだなァ」

 力なく笑うシャンクスに、マルコはため息をついた。シャンクスの身体は、時折疲労の蓄積がピークを越えてこのような状態になる。マルコがシャンクスのこのような姿を見るのは一度や二度ではないが、この男は自分の部下にこういった弱みを一切見せない節がある。

「そんな状態なら無理に来なくてもいいだろい」 「冗談だろ? 今日はおれの誕生日だぜ? この日のために宴を前倒しして1週間大騒ぎしたんだ」 「あの戦闘のあとからぶっ続けでか? 若くねェんだ。ちったァ自重しろい」

 レッドフォース号が航海する海域で大きな戦闘があったのは、ついこの間のことだ。いつもよりも幾分派手なやり合いはニュース・クーによって全世界に知れ渡り、遠く離れたモビーにも届いていた。しかしこの男の疲労はこの戦いとは何ら関係ないようで、どちらかといえばその後の宴を全力で参加した結果だ。

「そういうわけにもいかないさ。あいつらに疲れた顔なんて見せられねェだろ?」 「副官は気づいてるだろい」  副官どころか部下全員が気づいていると思うが、そこはシャンクスのプライドを尊重した。 「ああ、ここに来るのも文句たらたらだったさ。別にあいつがセックスするわけじゃないんだからいいじゃねェかと思うだろ?」  疲れた顔で笑うシャンクスに、マルコは「しばらくあの男に合わせる顔がないよい」とひそかにため息をついた。別に無理に来る必要はないのだ。それなのに、この状態を押してここへやってきたということがベン・ベックマンにどのような心情をもたらしているのかは、考えなくても分かる。

「部下に囲まれて辞世の句を読む誕生日ってのもオツだろい」 「おまえ何でそんなにおれを殺したがるんだよ」 「さァねい。"愛ゆえに"ってやつじゃないかい」  クツクツと笑う男に、シャンクスもへらりと笑った。

「じゃァ、一発ヌイてくれよ。疲れマラも通り過ぎちまった」 「通過したなら寝てろい」 「それじゃァ、ナニしに来たのかわからないだろ?」 「このままおっ始めて、中折れなんてしてみろい。全世界におまえの失態をばら撒いてやるよい。赤髪のシャンクスは、セックスの途中で寝ちまう腑抜け野郎だってな」 「おお、そいつは怖いな」 「だったら、今日は寝ろい。ここは明日だって押さえているだろ」 「なんだ。バレてたか」

 シャンクスはゆったりと身体を起こすとマルコがめくったシーツの中に潜り込み、その燃えるような赤い髪をふかふかの枕へと沈めた。そのままソファへ戻ろうとするマルコの背中に声を掛ける。

「あれ? 添い寝してくんねェの?」 「ガキか。てめェは」 「いいじゃねェかよ。ベンにしてもらうわけにはいかないだろ?」 「あの男なら、おまえが命令したら何でもやるだろい。何ならセックスの相手もしてもらえ」 「あ? 妬いた?」 「クソが」

 言葉とは裏腹に踵を返してベッドへ戻ってくるマルコにシャンクスは満足げな笑みを浮かべ、シーツをめくって迎え入れた。開かれた腕の中にするりと入り、当たり前のように右手をマルコの下腹へと伸ばす。 「……臨戦態勢じゃないか」 「ナニしにきたと思ってんだい」 「ククッ、素直じゃないな。まぁ、そういうところがイイんだけどさ」 「は、言ってろい」  既に兆しているマルコの雄芯を握りこみ、やわやわと刺激すると、それに応えるかのように硬さを増した。

「あ~……ヤリてェなァ……」  悔しそうに呟き、シャンクスはマルコのペニスを握ったまま眠りの海へと堕ちた。

「……ったく。おまえはエースかよい」

 その様子が大事な家族のそれと被り、マルコは苦笑した。すぅすぅと寝息を立てるシャンクスの股間に手を入れ、そっと触れた。そこはどくどくと自己主張をしていたが、残念ながら命令を下す主は役立たずだ。

 まァ。仕方ないかねい。

 いつもドンチャン騒ぎの海賊稼業だ。誕生日ぐらい、穏やかに過ごす年があってもいいではないか。

 次に目覚めれば10倍返しで求められ、この平穏が惜しくなるのは目に見えている。マルコもこの休息を有効に使うべく、シャンクスの怒張を手にしたまま瞳を閉じた。

(おわり)

---------------------------------------------- この後のズブズブな2人を誰か書いてください(懇願) おかしらお誕生日おめでとう!!

0件のコメント

最新記事

すべて表示

宣戦布告 (エース×サンジ)

「あんた、マジでしつこいな」 しんとしたラウンジにサンジの呆れた声が響く。 今日はメリー号に不意の来客があり、当然のことながら夕飯は飲めや歌えの大宴会となった。 存分に腹を満たしたクルーは満足げに眠りに就き、ラウンジは後片付けをするサンジと その客人だけになった。...

火遊び (スモーカー×サンジ)

「よぉ。ジャマしてるぜ」 無人のはずの自分の執務室へ入ると、すらりとした金髪頭の男がソファーで寛いでいた。  「…貴様、どうやって入った」  「正義」のコートをはためかせた男は不機嫌を隠さずに忌々しげに吐き捨て、ドアを閉めた。...

Comments


bottom of page