「あんた、バッカじゃないの!?」
サンジを「お試し」で抱いた翌日、ゾロはナミに思いっきり罵倒された。
「普段どおり」を装っていたサンジだったが、明らかに顔色が悪く足元もおぼつかない様子はどのクルーにも「何かあったな」と勘付かせた。
そんなサンジを気遣い、ナミは昼食後に男共に釣り大会を命じたのだ。
「サンジくんは魚が釣れてからたくさん働いてもらうから、今は休んでてね」
この一言でサンジはメロメロになったが、その瞳の奥に安堵の色が灯ったのをナミは見逃さなかった。
体よくサンジだけを外し、飄々と釣り糸を垂らしているゾロに「どうせ原因はアンタでしょ」と詰め寄ると、ゾロはこともなげに「ああ。ヤった」と答えたのだ。
「信じられない。どうせ無理やりヤったんでしょ。あのサンジくんがあそこまで憔悴するなんて」
「合意の上だ」
お試し、とはさすがのゾロもこの雰囲気では言い出せない。
ウソップは聞こえないふりをしている。
「サンジくん、明らかに経験なさそうじゃない。男どころか・・・」
「だろうな」
「それが最初がアンタって、トラウマ以外何も残らないわよ」
「クソコックが言ってたのか?」
「サンジくんがそんなこと言うわけないでしょ!女の勘よ」
ウソップは聞こえないふりをしている。
「気付いてるの?サンジくん、今朝からアンタを見る目が怯えてるわよ。隠してるけど」
「・・・」
気付いてないわけではないが、確信が持てなかった。
やはりあの目の色はそうだったか。
ウソップは逃げ出そうとしている。
「おいウソップ!引いてるぞ!」
ゾロの声に、ウソップはひぃい!と慌てて竿を引き上げた。
「私が言うことじゃないけど、あんな酷いことはやめてあげて。見てられないわ」
ナミの言葉には、サンジに対する気遣いと愛情に溢れていた。
「ゾロ」
それまで会話にはノータッチだったルフィがくるっとこちらを向く。
「サンジ壊すなよ。おれはサンジのメシが毎日食いてぇ。サンジはおれのコックなんだからな」
「・・・ああ。悪かった」
「謝る相手が違うでしょ!」
パコン!とナミにバケツで殴られるゾロにルフィはしししと笑い、ウソップが格闘している竿へとみょーんと腕を伸ばした。
ザバーン!と水しぶきが上がり、今日の夕餉には十分なサイズの魚が甲板へ打ちあがった。
「いょーっし!勇敢な海の戦士が釣り上げたこの魚ァ!!この俺様自らキッチンへ運んでやるーー!」
ウソップは今度こそ逃げ出した。
とにかく自分のものにしたい、それだけの欲望で加減せずに無我夢中で抱いてしまった。
しかし身体だけではない、あのコックが何を求めているのか、何をして欲しいのか、知りたくなった。
しばらくの間、ゾロはサンジに触れることなく過ごした。
なのに、いくら見ても欲しがるものが分からない。
女尊男卑と公言しながらも、男のクルーにもきっちりと与える。
そのくせ与えるばかりで、自分からは欲しない。
もどかしかった。
こんなにもクルーに情を注がれているのに、自分は何もいらないんですという言わんばかりのコックに。
海賊にあるまじき無欲さに。
無欲、というよりは最初から諦めているかのような雰囲気に。
何故自分をもっと大事にしない、と苛立ちさえ覚えた。
とどめにあのサンドウィッチだ。
彩りも味気もない、クルーには絶対に出さないであろう、ぱさぱさのサンドウィッチ。
バスケットには紅茶も入っていたが、ナミが寝る前に同じものを飲んでいた。
恐らくあれも二番煎じだろう。
もっと欲しがれ、欲を出せ。
おれの情を受け取れ。
それがゾロがサンジに対して出した答えだった。
「・・・ぅ・・・っ」
ちゅ、ちゅ、とついばむように唇に触れ、ぺろりと舐める。
ふ、と開いた唇に、するりと舌を差し入れる。
ひらひらと逃げようとする舌を柔らかく捉え、あやすように吸いねぶる。
時々口を離し呼吸を促してやり、深く息を吸ったのを確認すると、それを塞ぐようにまた口を合わせる。
まるで飴を溶かすような、決して激しくはないゆるゆるとしたキスに、サンジの目元はうっすらと赤みを帯び、瞳はうるんでいた。
「は・・・」
ふるふるとかぶりを振るサンジに、ゾロは苦笑した。
「まだ何もしてねェよ。腹括ったんだろ」
耳元でため息のように囁くと、はぅ、と小さい声をあげ、ぶるりと震えた。
スウェットにジップアップのパーカーというラフな格好は、いつもきちんとしたスーツ姿のサンジとは違う一面を見せ、ゾロの情欲を駆り立てた。
パーカーのファスナーを歯で噛み、ジ・・・とゆっくり下ろしていく。
プレゼントの包装紙をひもとくように、優しく。
下に着ていたシャツもめくり、わき腹を確かめるようにさすりながらおりていく。
つと、腰の少し上で手が止まった。
「・・・俺が付けた跡だな」
悪かった、と詫びて赤黒くなった噛み痕を撫で、そっと唇を落とす。
「・・・ぁ・・・、っ」
その後もまだ消えていない噛み痕を、ひとつひとつ確かめるように手で触れ、唇で触れた。
その場所が増えていくたびに、サンジの熱が上がっていく。
いやいやと首を横に振るが、ゾロの手は止まらない。
「てめェのイヤは聞かねェ。別の・・・逆の意味にも聞こえるしな」
笑いを含んだその言い方に、サンジの頬がさっと赤くなる。
――――まるで獲物を弄ぶ虎だ。
弱っている獲物をいたぶる様に、生かさず殺さず弄ぶ。
ゾロの動作はすべて緩やかで柔らかいものだった。
どこも荒々しくはない、けれども確実に追い上げるその動きに、サンジは混乱した。
これなら頭からがぶりと噛まれた方がよっぽどマシだと思えるぐらい、ざわざわともどかしい快感が身体中に広がる。
「ぅ・・・あ、あ、・・・い、やだ・・・っ」
きゅ、と胸の飾りを摘まれた。
身体中に電流が流れる。
「ココ・・・いいな」
誰とはなしにゾロは呟き、指先で捏ねるように動かす。
その度に、甘い声が出てしまう。
反対の飾りも同じように摘まれ、口に含まれた。
「ひ・・・ぃ・・・!!あ・・・、あぁ・・・」
ころころと舌で転がされ、甘く歯を立てられ、ぺちゃぺちゃと響く水音に消えてしまいたくなる。
指も口も、動きは優しいのに容赦なく追い上げる。
下肢に痺れが走り、じわりと先走りが下着にしみる感触がした。
恥ずかしくて情けなくて身を捩って逃げようとするが、ゾロはそれを許さずやんわりと股間を包み込む。
「は・・・ぁ・・・っ、あ、っ」
「乳首だけでこんなだな」
服の上から甘く甘く揉みしだかれ、力が抜ける。
「も、・・・も、やめろ!!」
サンジは力を振り絞って叫んだ。
その声に全く力はないが、それでも一応ゾロの手は止まった。
「ん、だよ。さっきから。・・・、前みたいにガツガツヤりゃいいだろうが!」
猫が爪と尻尾を立てて怒るような仕草、にも見えた。
「ホントに話を聞かないやつだな。それは前やった。今日はてめェに与える方だ。てめェは大人しく気持ちよくなってりゃいいんだ」
「てめェこそ話聞いてんのか!俺はイーブンっつったんだ。何で俺ばっかりこんな・・・!」
最後の方はごにょごにょと聞き取れなかった。
突然ぐいっと腹巻を引っ張られた。
「て、てめェも脱げ!クソマリモ!」
わけの分からない逆切れにゾロはニヤリと笑い、服を脱ぎ捨てた。
さして広くはない見張り台にランタンが1つ。
それが2人を照らす唯一の灯りだった。
「ぅ・・・うぅ・・・ん・・・」
ゆるゆると中を穿たれ、サンジは苦痛に近い声を漏らす。
ゾロの手には見慣れないボトルがあった。
数日前にゾロのハンモックに入っていたそれは、何かの植物から取り出したオイルのようだった。
誰が入れたかは・・・サンジが知る必要はないだろう。
その滑りを借りてサンジの体内をほぐしていく。
まだ快感には程遠いようだが、焦らず、じっくりと。
どれほどそうしていただろうか。
「・・・っ」
ぴく、とサンジの身体がわずかにはねた。
その変化をゾロは見逃さなかった。
「・・・ここか?」
中に入れた指で、先ほど触れた丸みにもう一度触れてみる。
「・・・!あぁ・・・っ!!」
怯えた目がゾロを見つめる。
自分でも分からないこの感覚は何だと、目で訴えている。
「てめェの‘イイトコロ‘だ」
答えると同時に、2本の指でそこを優しくさすった。
「あ!ちょ・・・ま、・・・!!あァ・・・!!」
自分の意志とは関係なく、ぐんぐんと陰茎がいきり立つ感覚にサンジは怯え、身体がバラバラになってしまいそうな刺激に、ゾロに必死にしがみついた。
「ぞ・・・!あ・・・!!・・・は・・・や、やめっ!あっ!!やだ・・・っ、こ、こえぇ・・・っ!!」
「・・・っ、くそ・・・!!!」
耐え切れないとばかりにゾロはサンジの足を強引に開き、自分の陰茎を握り体勢を変えた。
ああ、また犯される。
また容赦なく広げられて、貫かれて・・・。
だがその痛みを感じることなく、サンジは甘い衝撃に囚われたまま果てた。
「・・・ぁっ!やっ!・・・あああァアアっ!」
そのまま頭が真っ白になるような快楽に包まれたのは、時間にしてほんの数秒だった。
まだ整わない息をしながら目を開けると、はっはと同じく息を整えようとするマリモ頭が映った。
「・・・く、そ。我慢できなかった」
下肢には、サンジのだけにしては量が多い白濁が飛び散り、自嘲するように呟くゾロに、サンジは呆然としながらも何が起こったかを悟った。
サンジが絶頂を迎える直前、ゾロはサンジの間に身体を入れ、サンジと自分の陰茎を一緒に掴んで扱いていた。
おそらく、同時にイったのだろう。
「て、め・・・」
「は・・・っ、風呂でヌイてきたんだがな」
それも2回、と、この場には相応しくないぐらいの屈託のない笑顔でそう言われ、サンジはまるで自分のことのように真っ赤になった。
「な、てめ、バカじゃねェ?」
あの魔獣が、俺のことなんてお構いなしで犯し倒したあのゾロが、風呂でヌイてきただなんて。
「やっぱ、てめェ、頭おかしいって・・・」
なぜかこみ上げてくる笑いに乗せて、そう答えた。
犯されたと表現してもいいようなことをされ、サンジの中ではゾロに対する一種の緊張感が消えていなかった。
だけどこいつだって年相応の不器用なヤツで、仲間で、そして自分に何かを与えようと躍起になっていて。
なんだ、コイツも人間なんだと、ふ、と肩の力が抜けた。
「んで、どうすんだ?大人しくマリモになって寝るか、魔獣に戻るのか」
ランタンの灯りは、2人だけを灯していた。
翌朝、不自然な動きをしながらもヘラヘラと笑いながら給仕をするサンジに、クルーたちは心ひそかに安堵した。
身体は相変わらず辛そうだが、寝不足ながらも生き生きとした表情からするに、我らのコックさんは幸せなのだろう。
・・・寝不足なのは不寝番だけではなかったのだが。
「・・・ったく、あの寝腐れクソマリモ!人の仕事を増やすなって」
怒りながら、しかし足取りは軽くラウンジを出て行くサンジを、それでもクルーは温かく見送った。
その後、ウソップ工房のドアには「急ピッチ増産中!!」と殴り書きされた札がかかり、しばらく休業状態に陥った。
(おわり)
-------------------------- ナミさんの大説教大会と、かわいそうなポジションのウソップが書いてて最高に楽しかったです。← フォロワーさんにプレゼントしたのは最初の1話だけだったんですが、ゾロとサンジをちゃんと両想いにしたかったんですよ。 馴れ初め・お初大好物なんです。 どなたかそんなサーチ作ってくれませんか?(他人任せ)
(2013.2.10~20 pixiv/2013.4.26改稿)
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