「おいチョッパー!風呂行くぞ風呂!用意しろ」
「おおおおれ、ゾロと行くぞ!」
「てめェ、昨日も俺と行くっつって待ってる間に寝ちまっただろうがよ。今日はその手は効かねェぞ。
クソマリモは鍛錬中だからしばらく来ねぇよ。俺で我慢しろ」
何とかして風呂を1日でも延ばそうと粘るトナカイの頭をぺしんと叩いて、サンジは風呂へと向かった。
職業柄、身奇麗にしておくのも大事ではあるが、サンジは風呂が好きだ。
島へ上陸すると、食材選びと一緒に石鹸やらシャンプーやらのバスグッズも探しては買っている。
ナミやロビンにプレゼントすることもあるが、たいていは自分用だ。
今のお気に入りはオーガニックの液体状の石鹸で、身体も顔も洗えるので重宝している。
ベースは無香料だが、お気に入りのアロマオイルを調合して好みの香りにしている。
チョッパーは匂いに敏感なので、自分と一緒に入るときはブレンドしていないボトルを使ってやる。
手早く丁寧に洗ってやると、さっきまで嫌がっていたトナカイの背中は気持ちよさそうに丸まっていた。
お返し、とばかりに背中を洗ってもらい、2人で浴槽に浸かっていると、チョッパーが不思議そうに
声を掛けた。
「なぁサンジ、さっきなんでゾロがしばらくこないって分かったんだ?」
つぶらな瞳に見つめられ、何だそんなことかよと、にやんと笑う。
「今日はマリモが見張りだろ?あいつ見張りの日はメシが終わったら鍛錬してんだよ。
ラウンジから出てった時間を逆算したら、まだ串団子は500も振ってねぇはずだ。
夜だからまぁ軽く2000ぐらいで終わるだろうけど、それでもてめぇが眠くなるには十分な時間だからな」
だから俺が風呂に入れてやったんだよ、と、ぴっと湯を顔に掛けられた。
ふるふるっと顔を拭いながら、チョッパーは感嘆した。
「すごいなサンジ!サンジはゾロのこと何でも知ってるんだな!」
「ま、まぁな。あいつマリモだから行動が単純で分かりやすいんだよ」
動揺して言動がおかしくなっていることにサンジは気がついていない。
ゾロとサンジはただの仲間以上の間柄であり、そのことはクルー全員周知の事実ではあるが、
サンジとしてはあまりおおっぴらにしたくはないのだ。
―――クソ恥ずかしいじゃねーかよ。
その一言に尽きる
何しろケンカで始まった仲だ。恋人同士になった途端にイチャイチャするのもどうかと思う。
ましてや男同士だ。立派なホモカップルだ。
ゾロへの気持ちに偽りはないし、ゾロはそんなことを気にする性格ではない。
でもなぁ、やっぱ恥ずかしいじゃんかよ。
というわけでサンジとしてはそのあたりにはあまり突っ込まないで欲しいのだ。
当のゾロはもちろんのこと、ある意味全員大物であるクルーも誰一人として気にはしていないのだが。
そんなことをぼんやりと考えていたら、なにやら脱衣所で人の気配がする。
ゴト、っと重たい音がし、それに続いて衣擦れの音がする。
ま・・・まさか。
サンジの背筋にさーっと冷たい感触がつたう。
そのまさか、だった。
ばんと扉を開けて入ってきたのは、全身から汗を滴らせた何も隠そうとしない全裸の男。
紛れもなく「クソ剣士」だった。
「ゾロだー!鍛錬終わったのか?」
無邪気に聞くチョッパーにゾロは「ああ」と短く答え、ざばざばと湯を身体に掛け始めた。
「鍛錬してたのか?今日は何回したんだ?」
「あ?ああ、夜だし2000でやめた」
会話をしながら、チョッパーは瞳をきらきらと輝かせはじめた。
「すごい!サンジの言ってた通りだ!サンジは本当に何でもゾロのことが分かるんだな!」
「・・・チョッパー、てめェもう上がれ。茹で上がるぞ」
努めて冷静に声を掛け、チョッパーが脱衣所へ出たのを確認すると、サンジはくるっと壁のほうを向いて三角座りをし、頭を垂れてしまった。
しーんと静まり返った浴室に、がしゃがしゃとゾロが乱暴に頭を洗っている音が響く。
「てめ・・・信じらんねぇ」
「何がだ」
「何で普通に入ってくるんだよ」
「いつも入ってるじゃねぇかよ」
「そ、そりゃ誰もいねぇ時の話だろ!」
「ロビンが風呂行って来いっつったからよ」
「ろ、ロビンちゃんが・・・そんな・・・俺・・・」
ゾロにはサンジが何を言っているのかがさっぱり分からなかった。
一方サンジは、羞恥のあまり憤死しそうだった。
確かに島に停泊していてクルーがいない時は、サンジはゾロと一緒に風呂に入っている。
ただ入るだけだったり、そうじゃない時もある。
だがそれは、あくまでゾロと2人きりの時の話だ。
他のクルーがいるときは絶対にしない。
男風呂大会のときならともかく他のクルーがいるのに風呂で2人になるだなんて、「察してください」と言っているようなものだ。
たとえ疚しいことがなくても、自分たちが風呂に入っている間の他のクルーの会話を想像したら、居たたまれない気持ちになる。
いっそ最中を見られたほうがマシかもしれない。
それぐらいの勢いで、サンジは恥ずかしかった。
お風呂から上がって、ロビンになんて言い訳をしたらいいのかとばかりグルグルと考えているうちに、
身体を洗い終わったゾロがざぶんと浴槽に入ってきた。
「・・・っだ!!」
「だから何なんだよてめェは」
「うるせー!マリモには高度すぎるかもしれねェが、こういうときは空気読んでずらして入って来いよ!!」
何やら恥ずかしがっているということは理解できたが、なぜ自分がここまで怒られなければいけないのかゾロにはさっぱり分からなかった。
鍛錬が終わって汗をかいた。
風呂はサンジとチョッパーが使用中だったが、女が入っているわけではない。
ロビンも「一緒に入ればいいじゃない」というので入ってきただけだ。
それの何が悪いのか。
自分に背を向けたコックのうなじはほんのり桜色に染まっていて、えもいわれぬ色気を醸し出している。
すぐにでも齧り付きたいが、今それをやったら間違いなく船の外まで蹴り飛ばされるだろう。
それにあの肌の火照りは、羞恥だけではなさそうだ。
どれほど浸かっていたのだろう。あのまま放っておくと、間違いなく湯に中る。
理由はあとでゆっくりと身体に問いただすとして、ゾロはサンジを風呂から出すことにした。
「おい、てめェは上がって夜食でも作ってろ。にぎり飯と玉子焼き。甘いやつな。それと米の酒」
「俺はてめェの嫁じゃねぇぞクソマリモ」
「コックだろ。俺の」
ボン!とサンジの頭から湯気があがり、顔どころか首まで真っ赤に染まった。
「な・・・て、てめ、なんでそんな・・・・!」
ばしゃんと立ち上がり、へどもどと逃げるように脱衣所へ向かうサンジに、ゾロはとどめとばかりに
もう一度声を掛けた。
「見張り台に来るときは覚悟しやがれ。今日はそうそう解放しねェからな」
「・・・っ!!」
バタン!と大きな音を立てて閉まった扉を見て、ゾロはくっくと笑いを噛み殺した。
(おわり)
-------------------------- pixivに上げていた頃に「上げる話がエロばっかりじゃんかよ!」と半ば慌てて書いたエロなし話です← 結局この先もエロの頻度が上がる一方だったので、サイトを作ることになったんですけどね。 エロがないにもかかわらず(しつこい)たくさんの評価とブクマを頂いたありがたい作品です
(2013.1.29 pixiv/2013.4.20改稿)
Comments