ベッドに転がって笑い死にするかもしれない天下の四皇を、エースは呆然と見ていた。かれこれ5分は笑い続けている。自分が知らないだけで、シャンクスは何か妙な持病を持っているのだろうかと考え始めたところで、シャンクスがヒーヒーと苦しそうに息を整え、起き上がった。
「おまえ、まさか、マルコに……っ、抱かれる気だったのか?」
「へっ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげ、しどろもどろに返事をする。
「え、あ、だって! 『おれとセックス出来るのかい』って聞かれて。だからマルコがおれを抱くのかと」
エースの言葉を最後まで聞かず、シャンクスは再び笑い転げた。
「ヒー、おっかしィ! いや、悪い悪い。まァそうだよな。あいつすげームッツリだから、普通に見てりゃァマルコが「抱く方」のポジションだと思うよな」
まだゲラゲラ笑うシャンクスに、とうとうエースはキレた。
「何なんだよ! 笑ってないでちゃんと答えろよ!」
「あー、腹筋がチョコレートみたいに割れちまう。おまえもマルコも最高だな」
転がっていたベッドから「よっ!」と起き上がり、シャンクスはエースを見た。まだ戸惑う若者に、噛んで含めるように言い聞かせる。
「マルコは根っからのボトム、あー、つまり、抱かれる方だ。抱いてくれなんて言ったら蹴り殺されるぞ」
「え?」
「だからおまえに『おれとセックスが出来るのか?』って聞いたのは『おれを抱けるのか?』ってことだ」
「……マジかよー!」
エースは頭を抱えた。この数週間の葛藤は、一体何だったのだろう。何度も何度もシミュレートしたが、どうしてもそっちに回ることが出来なくて思い悩んでいたというのに!
そもそも、あの不死鳥は口数が少なすぎる。その部分を明言していれば、こんなに悩まなくてもよかったのに。尻を明け渡さなければならないと思い悩んだ日々を返してほしい。
「それを踏まえて、もう一度考えてみろ。おまえは、マルコを抱けるか? もしそれが無理なら、悪いことは言わないから諦めろ。レンアイってのは、きれいごとばかりじゃないんだ」
マルコがエースに求めたのは「抱かれる覚悟」ではなく「抱く覚悟」だったなんて、想像もしなかった。シャンクスの言葉に、エースは改めて考える。おれが、マルコを、抱く。おれのアレがマルコのあんなところに……。その想像は驚くほど簡単で違和感がなく、すんなりとエースの頭に入ってきた。
「……やべ。ちんこ勃った」
人間とは現金なもので、意識し始めると途端に欲望が頭をもたげる。それに若さが加われば、もはや止めることなど不可能だろう。若干前屈みになったエースに、シャンクスが再び吹き出す。この男は、一生分の笑いをここで使い果たすつもりなのだろうか。
「あーもー、若いっていいよなァ」
次の瞬間、シャンクスの手がエースの腕をつかんだ。ぐいと引っ張られ、たたらを踏む前に背中からベッドに落ち、いとも簡単にシャンクスに押し倒される。相手は片腕なのに、のしかかられた身体はびくともしない。覇気を発動しているわけではない。遊びの延長で組み敷いているシャンクスに、エースは全く歯が立たなかった。
「何すんだよ!」
「おまえがその気になってくれたら、マルコもさぞ喜ぶだろう。だが野郎同士のセックスは、女相手とは勝手が違うからな。ついでだからレクチャーしてやるよ」
「いらねぇ!!」
「遠慮するな。ボトムの味も教えてやるって」
恐ろしいことを笑顔で言うシャンクスに、エースはぞぞっと鳥肌が立った。
「冗談じゃねェよ!! あんた、絶対楽しんでんだろ!!」
「そりゃァ、こーんな可愛いのと密室で2人でいて、しかもおっ勃てたなんて言われたら、男として応えないわけにはいかないだろ? ボトムをヨくしてやるにはボトムの立場になるのが一番手っ取り早い」
「頼んでねぇよ!! 離せって!」
シャンクスの本気の視線に、エースは身を守ろうと炎を出そうとしたが、
「!!!」
覇王色の覇気をこの至近距離で食らってしまってはひとたまりもない。びりびりと痺れたように動けなくなったエースに、シャンクスが微笑みかける。
「おれさー。一応四皇とか言われてるワケ。上には上がいるもんだし、おまえは自分の力を過信しすぎだ。それにいくら顔見知りでも、海で会ったら敵だぜ? ちっとは警戒心ってものを持っとかなきゃ、なァ?」
エースは知らないが、たかがセックスに覇気を使うのがシャンクスという男だ。人生経験で言えば、エースはシャンクスの足元にも及ばない。 まさに赤子の手をひねるように押さえつけ「いっただっきまーす!」とシャンクスが元気に声を上げたところで、部屋の外の廊下から風を切る音が聞こえた。次の瞬間、ガコン! とドアの蝶番が外れて落ちる。その先に立っていたのは、肩から青い炎を吹き出さんばかりに怒りをあらわにしたマルコだった。
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