「おれと付き合って、何がしたいんだよい」
ある日、しつこく付きまとう末っ子に長男が面と向かって問うた。
「何って……恋人になりたいんだ。マルコと」
若さゆえのまっすぐさを、兄は嗤った。
「おまえ、女とセックスしたことはあるのかい?」
「まぁ、……ないことはないけど」
「それとおなじことを、おれと出来るか?」
「……え?」
「恋人というからには、それ相応のことがついてくるだろい。まさか男同士だからそういうことはないと思ってるんだったら、海で顔を洗って出直すんだねい。おれはガキのままごとに付き合う気はねェよい」
腕のログポースをちらりと見やり、不死鳥は続けた。
「次の島まで、あと3週間だ。上陸前に答えを聞く。じっくり考えて、それでダメならおれのことは諦めろい」
エースは、不死鳥を手に入れることに精一杯だった。手にした宝をどうするか、どうしたいのか、ましてやキスとかセックスなど、エースはそこまで考えるに至っていなかった。
こういう事は、三度の飯より猥談が好きな4番隊隊長に聞けば一発だが、ああ見えて聡い彼は言ってもいないマルコとの関係にまで首を突っ込んでくるのは必至だ。なのでエースはこっそりと「資料」を取り寄せ、独学で男同士のセックスについて調べた。その結果、見事に撃沈した。
「……無理だ」
あんなところにあんなブツが入るなんて、とてもじゃないけど考えられない。マルコのそれは風呂場で何度か見たことがあるが、通常サイズでそこそこある彼のアレがその気になったら、エースの尻など簡単に破壊してしまうだろう。いくらロギア系の能力者でも、尻が破壊されてしまっては生きていけないような気がする。イゾウとサッチは一体どうやって致してるんだろうか。大いに気になるが、恐ろしくて聞く気になれない。悶々と過ごすうちにあっという間に上陸の日を迎えてしまったが、考えても考えても、思うような答えは出なかった。
シャンクスと別れてから、エースは海が見渡せる丘の上にずっと座っていた。夕日を隠した水平線がオレンジから紫に染まり、やがて闇に消える様子を見届けた。月が出ていない星空を見上げ、エースは意を決して立ち上がった。
「おう。来たか」
下の酒場は先ほどよりも賑わい、海の男と陸の男が分け隔てなく大騒ぎしている。ゆったりと仮住まいのベッドに腰かける四皇は、青年が再び訪れることを知っていた。
どうあがいてもたどり着けない場所にいるシャンクスの余裕が、エースの心を乱れさせる。悔しかった。この男の強さと、大きさと、優しさが憎かった。
マルコは欲しい。恋人になりたい。だがセックスは無理だ。それでもエースは模索していたが、手詰まりだった。だから一縷の望みをかけて、再びこの男の元を訪れた。恥だの外聞だの考える余裕は、今のエースにはなかった。
「おれ、今すげェ悔しい。どうやったって、あんたには勝てないから」
「そうだな」
「でもおれは、マルコと前に進みたい。だから教えてくれ」
言葉を切る青年を、四皇は面白そうに眺めている。
「シャンクスは、どうやってマルコに抱かれてるんだ?」
問う瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。
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