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執筆者の写真丘咲りうら

ももいろ不死鳥(3/9) (エース×マルコ)

「そっかァ。フラれちまったか」

 気の毒になァと決めつけるリーゼントに、エースは飯を掻き込みながら「まだ終わってねェよ!!」と噛みついた。当たり前のように2人の間に座らされ、バキュームのごとく食事を摂る姿を観察される。気分は檻の中のライオンだ。

「まだ何か方法があるはずなんだ。だから、上陸してる間にちゃんと話し合いたい」 「なるほどねェ。それで昨日は花街をウロウロしてたのか」 「何で知ってだよ」 「おにィさんは、何でも知ってんだよ」 「理由、ねェ。マルコは何と言ったんだ?」

 ヒヒっと笑うサッチを無視して皿の上の肉を口へ押し込み、エースは骨を置いた。ごくりと咀嚼してイゾウの質問に答える。

「おっさんにだって性欲はある。だからセックスなしの恋愛なんてごめんだよいって」 「あ~。まァ、そりゃそうだわな」 「ガキのお遊びじゃないからな。付随して当然だ」

 肯定の言葉を聞きながら、エースは考えた。あれだけ花街を歩いたのに、マルコを見た者すらいないというのは、あまりに不自然だ。「後腐れのない相手」とは商売女のことだと思っていたが、見当違いだったのかもしれない。では誰のことを指しているのか。そしてその相手を、この2人の兄たちが知っているとすれば……?  だが陽気に見えて狡猾な家族たちだ。直球で聞いて素直に答えてくれる彼らではない。「変化」が必要だ。  家族の一大事だというのに全く意に介さずのんびりと酒を煽る間抜けなリーゼントを見ながら、エースは、賭けに出た。

「……この島に、後腐れのない相手がいるってマルコが言ってたから」 「え! あいつ、おまえに赤髪と寝てるってことまでカムアウトしたのか?」 「しっ! サッチ!!」

 珍しく慌てるイゾウの声に、エースは作戦が成功したことを確信した。そんな弟を見て、サッチが「アチャー!」と顔に手を当てた。

「クッソ!! こいつに一本取られるなんて、サッチさん一生の不覚!!」 「やっぱり隠してたんだな! おかしいと思ったんだ。何で黙ってたんだよ! ていうか、何でシャンクスなんだよ!」

 怒りを露わにしたエースを、イゾウが「まぁおちつけ」と宥めた。それが「嫉妬」ということに、彼は気付いていないだろう。ものに当たったりはしないが、サッチのリーゼントは今すぐにでもとばっちりの炎に触れてしまいそうなほどの距離にいた。

「隠すつもりはなかったさ。おまえに言うか言わざるか、皆悩んでいた。」 「何で敵のシャンクスと!」 「まァ、海で会ったら敵だけどなァ。何だかんだで長い付き合いだし、そこら辺は暗黙の了解ってのかね。オヤジも了承の上だ」 「わかんねェ! おれにはそんなことが通るなんてわからねェよ!」 「だからガキだって言われるんだよ」 「じゃあ! イゾウはサッチが他の誰かと寝ても気にしないのかよ!」 「状況によるが、サオをチョン切ってから事情聴取だな」

 どさくさに紛れて恐ろしいことを言ってのけるイゾウに、サッチが股間を押さえてヒン! と飛び上がった。

「せめて、事情を聞いてからにしてくれませんかね」

 サッチのささやかな願いを無視して、イゾウはエースを座らせジョッキを渡した。そしてそれを乱暴に煽る末弟を見ながら、続けた。

「エース。おまえ以前、『マルコがピンクに見えてふわふわしてる』って言ったな?」 「うん」 「おれたちにもマルコが時々いつもと違う様子になるのは知っている。だがピンク色には見えないし、見えたところで恐らくどうしようもできない。今あいつの相手をしてやれるのは、残念ながら赤髪だけだ。だがおれたちだって手放しでマルコをあいつのところへ行かせたいわけじゃない。敵だしな。だから、おれたちよりもマルコに近い距離にいるおまえが、はっきりとした『色』で見えることは、いいことだと思う。おまえにしか出来ないことがあるかもしれないぞ」 「おれにしか、出来ないこと?」

 黙ってしまったエースを、2人は静かに見守った。軽率に口を滑らせたサッチの処遇はマルコに任せるが、これから先のことを考えればいつまでも隠し通せる事案ではなかった。この年若い末弟が何かを変えてくれるのではないかと、イゾウは期待していた。

「一つだけ教えてやろう。この島に、赤髪がお忍びで上陸してるのはマジだ。目的は知らんがな」

 ガタン! とエースが立ち上がり、「おれ、シャンクスを探してくる!」と酒場を飛び出していった。決して小さくはない港町だ。お忍びで来ている四皇を探すのは容易ではないが、きっと彼なら捜し当てるだろう。  ドアベルが末っ子をやかましく追う音を聞きながら、サッチがやれやれと首をすくめた。

「まっさか、エースに一杯食わされるとはな」 「ふふ。あんなアプローチの仕方をいつの間にか覚えたんだな。次の諜報は2番隊になるか?」 「げ。おれクビかよ」 「あんなヘマをするんじゃ、任せられねェだろ」 「絶対マルコの影響だ。あんなねちっこい聞き方を、あいつがするわけねェもん。あーもー。おれ絶対マルコに蹴り殺される」 「花ぐらいは手向けてやるよ」 「おまえねー」

 しれっと流す美丈夫に、サッチは苦笑しか出ない。まったくこの男はどこをとってもスマートだ。

「ところでイゾウさん、さっきの話だけど」 「あン?」 「いきなりチョン切るってのは、人としてどうかな~と思うんですけど」 「ああ、あれか。理由はどうあれ、アウトだろ」

 絶対の自信を持つイゾウの牙城は、そう簡単には崩せない。

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