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執筆者の写真丘咲りうら

ももいろ不死鳥(1/9) (エース×マルコ)

 気高い不死鳥は耐えていた。

「天下の白ひげ海賊団の一番隊隊長サマとは思えない姿だな」

十分に侮辱に値する投げかけだったが、反論する気力がなかった。それどころか、理性を保っているのがギリギリの状態だ。気を抜けばたちまち人型を保てなくなってしまう。

 とある島へ単独で偵察に入り、モビーへ戻ろうとしたマルコに突然「それ」が訪れた。予想より遥かに早い到来に舌打ちをしながら森へ入り、なけなしの理性を総動員して何とかこの場所へとたどり着いた。簡素ながらも整頓された小屋を見つけたのは、幸運としか言いようがなかった。渋々取り出した近くの海域を航海中だったビブルカードの持ち主は、突然の呼び出しにさして驚かず現れた。

「急に……キたんだよい」 「だな。あとひと月は先かと思ってたんだが」

 しかし、と燃えるような髪色をした男は唯一の腕を上げ、口元に手をやり言った。

「おまえ、エースとイイ仲になったんじゃないのか?」

 ぎっと睨みつける不死鳥の瞳には、普段の力はなかった。

「おまえには、関係ねぇだろい」 「まァそうだが。まだそういう仲じゃなかったのか」 「ガキにこんな姿見せてどうするよい」 「ガキ……ねぇ。確かにおれたちから見たらまだまだガキだ」 「御託はいいから、さっさと始めろよい」 「はいはい。仰せのままに」

 ベッドが2人分の重さに軋むのと、小屋が青白い光に包まれるのはほぼ同時だった。

「マルコがピンクに見えるし、いい匂いがする」

 上陸を控えたモビー・ディック号の甲板で、年長者の2人が固まっている。白ひげの首を狙っていた時期は別だが(本人が拒絶したのだからしょうがない)この大食漢の末っ子にはたらふく食べさせることを至上命令としている厨房係が聞いたら卒倒しそうなセリフを、彼はさらりと口にした。挙句、うららかな天候にやられて頭もおかしくなったらしい。

「エースくん。あれは青い鳥だし、食べられませんよ?」

 リーゼントの兄が優しく諭すが「そーいう意味じゃねぇよ。バカサッチ」と理不尽に罵られた。

「サッチわかんねぇのかよ。時々マルコの身体から、ピンクのキラキラしたのが出てるんだ。偵察から戻って来てからおかしくないか? 雰囲気もいつものマルコじゃなくて、何かふわふわしてるっつーか。……うーん」

 彼の貧相なボキャブラリーでは表現できない何かがあるらしく頭を抱えているが、出ないものは出ない。そして結局「何ていうか、『頭からバリバリ食ってくれ』って言われてる気がする」とどうしようもない結論に達した。

「やっぱり食糧扱いじゃねーかよ」 「違うって! なぁ、イゾウは分かるよな!?」

 エースは、サッチの横で煙を浮かべる麗しの16番隊隊長に助けを求めた。

「言いたいことはな」 「だろ!? 何でわからねぇんだよ。サッチバカじゃねぇの?」

 何でここまで貶められなければならないのだろう。だが、サッチだってエースが何を言わんとしているかは分かっていた。

「直接聞けば……あ、いや、やめとけ。蹴られるだけだ」 「何だよ。ちゃんと最後まで言えよ」

 らしくなく言葉を濁したサッチに、エースがむくれた。

「あー……うーん。なんつーかなぁ。まぁ、大人の事情ってやつだ。気にするな」 「おれがガキだってのかよ!」

 子供丸出しの感情で肩から火を放出するエースに向かって、イゾウが「およしよ」とキセルから吸い殻だけを器用に投げた。炎に飛び込んだそれは、瞬く間に炭となりさらさらと甲板にこぼれていく。

「おれには分からんが、マルコは年に数回そういう状態の時があるらしい。おまえに見えるそのキラキラとかふわふわとやらも、じき解消して元通りになるだろう。なァに、おまえが心配することじゃない。せいぜいあいつの仕事を増やさないようにすることだな。2番隊の補給リストは提出したか?」 「あ! やべェ! まだ書けてなかった」 「明後日の昼には上陸だ。あのワーカーホリックにちゃんと休暇を取らせるためにも、やることはきちっとやっておけ」 「おう!」

 仮に同じことをサッチに言われたら目一杯反発するだろうが、エースは基本的にイゾウの言うことには素直に従う。彼が怖いというよりは、妙な説得力があるからだ。

「あのマルコを見てたら、なんか腹の下がもやっとするんだよなぁ」

 誰にともなくそう呟いて船内へ戻る背中の誇りを見送りながら、2人の隊長は顔を見合わせた。

「……マジかよ」 「野生児ってのは、伊達じゃねぇな。あの色が見えるとはねぇ」

 おもしろそうに目を細めるイゾウを、サッチが窘める。

「こらこら、楽しむんじゃありません」 「ふふ。いいことじゃねぇか。エースがどうにかしてくれりゃァ、マルコも楽になるだろう」 「そりゃそうだけどよォ。あのネンネに務まるかァ?」 「おれは時間の問題と思うがな」

 イゾウの笑みは美しいが、時に恐ろしくも見える。上機嫌に甲板に向かうしゃんと伸びた背筋を見送りながら、これから存分に鍛え上げられる彼の部下たちの健闘を祈り、非番のサッチは末っ子の物理的な食欲を満たすための作業に取りかかることにした。  我らが1番隊隊長が、新米2番隊隊長の夕餉にあがるということは、いくらなんでもあってはならない。

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