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執筆者の写真丘咲りうら

太陽へのオマージュ(14/15)

……まいったねい。

 全く動く様子のない塊に、マルコは嘆息した。  何度も絶頂を極めて倒れこんできた身体を満足気に抱きしめ、その身体を丁寧に清めて横たえ、肌かけを掛けてやった途端、くるりとそのままくるまってしまい、ぴくりとも動かなくなった。  寝てはいないはずだが、とにかく布団の中から出てこようとしない。

「そろそろ機嫌を直して出てきてくれないかねい」  声を掛ければ掛けるほど、その身体は拒否するように丸まっていく。  少し待つか、とマルコはタバコに火を点けた。

 タバコを吸い終わっても塊は動く気配がなかったので、マルコはあっさりと待つのをやめた。 「……声が聞けねェなら身体に聞くよい」 「~~~~……っ!!」

 その一言で、エースはシーツからガバっと顔だけを出した。茹だったのかというぐらい真っ赤だ。  声にならない声で抗議をするエースに、マルコは人の悪い笑みを浮かべた。

「そんな顔するない。またハメたくなっちまう」 「……!!」  今度こそ完全に頭から湯気が出たエースにとうとう堪えきれなくなり、声を出して笑った。

「……っ! ずりぃ……!」  うまく言葉が出てこないもどかしさを、エースはその単語に託した。  前のアレは一体何だったんだというほどに翻弄された。何度もイカされ、マルコのすごいモノで犯され、あられもない声を上げた。「随分とココにご執心だったねい」と乳首をいやというほど弄られ、最後はマルコの上に乗り、突き上げられながら言われるがままに自分でペニスを弄って射精した。欲望を浮かべたギラギラとした瞳に食い殺されると感じながら達した絶頂は、これまで女相手にしてきたセックスなど比べ物にならないほど強烈だった。

「ああそうさ。大人は狡い。おれはおまえを手に入れるためなら、どんな手でも使うよい」  まだ笑いながらもきっぱりと言い切ったマルコに、エースはぐぅの音も出なかった。大人って、大人って。

 差し出された水を飲む為に、重だるい身体を起き上がらせた。ごくごくと半分ほど飲み干して、聞くべきか悩んだ事を口にした。 「前って……加減してたのかよ」 「ああ? そりゃァな。あんまりにも可愛くて食っちまったが、それなりには自制したよい」  あああああやっぱり、とエースは頭を抱え込んだ。とても同一人物とは思えない抱き方に、もしかしてそうではないのかと思ったのだ。

「……いっそ、このまま寝ちまえばよかった」  そうすれば、この恥ずかしさからは少しは逃れられたのかもしれない。 「バカ言うない。今日はそのおまえの顔が見てェから加減したんだ。失神するほどヤリ潰すのは、次回以降のお楽しみだ」 「……っ!」  ニヤリと笑う雄の顔に、かっと顔が熱くなった。おれは選択を間違えたのかと思っても後の祭りだ。だってこの男に心底惚れてしまっているのだ。『グラディート』で寛ぐ彼も、仕事をする彼も、そして欲望のままに自分を抱く彼にも。

 ようやく手に入れた恋人の痴態は、どんな仕事を成功させたときよりもマルコを満足させた。もちろん、まだ序の口だが。 「なァ。今度インテリア見に行こうぜ」  いいことを思いついたとばかりに、突然脈絡のない提案をしたエースにマルコは少々面食らったが、続きを促した。 「『グラディート』のオブジェみたいにさ、ここに来たら会えるってヤツを見つけて、そんで置いとくんだ。マルコが興味ないなら、おれが決める」

 それはまるでマーキングなんだがねい、とマルコは思った。しかしエースはきっと無意識だ。

「おまえ色に、染めてくれるのかい?」 「たとえがおっさんだな」  明るく笑うエースを見て、マルコはそれも悪くないと思った。

「とんでもないのに捕まっちまったねい」 「おれも。こんなおっさんに誑かされるとは思ってなかった」  互いにそんなことを言いながらも、その表情は穏やかで満たされていた。

 人生も、捨てたモンじゃないねい。

 宣言どおり二度と離す気のない青年を腕に抱きこみ、マルコはその憎たらしく愛らしい唇を塞いだ。

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