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執筆者の写真丘咲りうら

太陽へのオマージュ(12/15)

穏やかで確かめるようなキスが、徐々に深くなる。  ぬろりと入ってきた舌はエースの口腔を蹂躙し、余すところなく触れた。  上あごをなぞられ、ぞくりと身体が震える。歯茎を舐められ、そんなところが感じるのかと慄いた。

「ずいぶんといいタイミングで登場したもんだねい」

 すそから手を入れシャツを脱がせながら、マルコは先ほどから疑問だったことを口にした。 「ん……っ、サッチが……メールくれたんだ。マルコが腐ってるって」  上がる息を必死に抑えながらエースは答えた。 「ちょうど学校出たトコで……っ、『グラディート』に行こうかなって思ってたとこ、だったから」 「そうかい。そりゃァ寄り道なんざしないで真っ直ぐ帰ればよかったねい」  あのお節介リーゼントも、たまにはいい仕事をする。クツクツと笑い、薄く浮き出た鎖骨を甘く噛んだ。

「……っ! ま、待って! 待ってマルコ……!!」

 若者の強がりは、あっけなくそのメッキを剥がした。さらに触れようとするマルコの手を必死に押さえ、中断させた。 「何だい。今更逃げようたってそうはいかねェよい」 「ちが、違う……っ。何か変だ……マルコっ!」  縋るような目は、ただただマルコの情欲を煽るばかりだった。

 あの晩、一度だけ寝た夜とは全く違う感覚にエースは戸惑った。マルコの指が、息が触れる場所が、まるでひりつくように熱い。どこもかしこもおかしくなりそうな、あの夜には全く感じることがなかった何かが、エースを怯えさせた。

「ビリって……ビリってするんだ。マルコが触るトコ、が」

 拙い言葉で必死に表現しようとするエースに、マルコは理性がジリジリと焼けていく音を聞いた。 「そりゃおめェ……好き合ったモンがやるセックスが普通だったら面白くねェだろい」  敢えて生々しい表現をしてやると、エースは更に羞恥に顔を歪めた。望んだ表情だ。たまらない。 「……だ、だって、おればっか……おればっかり……」  暗にジャケットを脱いだだけのマルコに抗議しているのだろう。浅い息でそれだけを言った。 「おまえばっかりじゃねェよい」  マルコはエースの右手を取ると、自身の昂りへと導いた。 「……っ!」  驚いて引こうとした手を離さず、ぐいと押さえつける。そのまま上下にさするように動かし、耳元で囁いた。

「おまえが欲しくてしょうがねェ。イヤでねェなら……協力してくんねェかい?」

 エースは強張らせていた身体を徐々に脱力させ、マルコを見上げた。最後まで硬直したままだった右手に、彼の意思が宿った。 「……でけェ」 「ありがとうよい」

 ベッドに腰掛けるマルコの前に、エースは困り果てた表情で立った。  ベッドサイドのランプだけが控えめに灯る寝室。口ではあんなことを言ったが、エースは先ほどの前戯とも言えない触れ合いだけで心が折れてしまいそうだった。  マルコとのセックスがイヤなわけではない。ただ、酔った勢いとは言え一度肌を合わせているマルコと改めてセックスをするいうのは、ものすごく恥ずかしい。この状態を表現する言葉が何かあった気がするのだが、混乱しているエースには思い出せない。

「脱がせてくれるかい?」

 その声音は甘く優しいが、自分の意思で触れろと暗に言っていた。前のように勢いで押し倒してくれれば楽なのに、マルコはエースに能動的に行動させようとしている。

 心臓が破裂するんじゃないかというぐらい、どくどくと脈打っているのが分かる。  震える指でシャツのボタンをひとつずつ外し、肩を滑らせた。アンダーウェアを自ら脱いだマルコの瞳は、次はどうすると問いかけている。手のひらで頬を包み、静かに口付けた。首、肩、鎖骨、わき腹、と確かめるように手で触れた。鍛えているのだろうか。適度に筋肉が付いた、成熟した男の身体だ。  マルコの足の間にしゃがんで膝を床に付き、腿に手を添えた。目の前で隆々と自己主張をしているボトムを脱がせる勇気は、なかった。

 視線を彷徨わせていると胸の飾りが目に入った。そっと触れて伺うように見上げると、眉を片方上げるだけで制止はされなかった。それに励まされるように口を寄せ、含んだ。女のそれとは違い小さく含みにくいが、刺激を与えると尖り、硬くなった。不思議な感触だった。しばらくの間、まるで母親の乳を吸う赤子のように無心で舐めた。徐々にマルコの息が少し甘くなる気がして、ぞくんと腰が疼いた。マルコの手が髪の毛を梳くように入り、頭皮をじかに撫でた。気持ちよかった。  マルコの胸がエースの唾液に濡れ始めた頃、優しく髪を引かれ、口を離した。見上げると、先ほどよりも明らかに欲情の色を濃くしたマルコの瞳があった。

「床は冷えるよい」

 床と言っても一面に上質のカーペットが敷いてある。夜は冷えるようになってきたが、ここに座り込んでいたからといって風邪を引くようなことはない。そう、ベッドに上げるための口実だ。  さっきまでの自分の行動が急に恥ずかしくなり、エースは口元を拭うと下を向いたままゆっくりと立ち上がった。マルコも立ち上がり、残されたままだったボトムを脱ぎ捨てた。伏せた目線の先にマルコの雄があらわになり、エースはますますいたたまれない気持ちになった。

「ありがとうよい。酷いことはしねェから、リラックスしてろい」

 ゆるりと抱きしめられた。素肌が触れ合う感覚に、酷く安心した。

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