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執筆者の写真丘咲りうら

サッチ太郎 (イゾウ×サッチ)

むかしむかしあるところに、白ひげと呼ばれる大男が住んでいました。ある日、白ひげが山へ芝刈りに行くと、草やぶの中に一本のフランスパンが刺さっていました。

「これは面白い。持って帰って食べるとしよう」

持ち帰った白ひげが大ナタでフランスパンを切ると、中から玉のような赤ちゃんが出てきました。

「グラララ。何て可愛いガキだ。おれの息子になれ」

子供がいなかった白ひげはとても喜び、赤ちゃんにサッチ太郎と名前を付けて大切に育てました。

月日が経ち、すくすくと成長したサッチ太郎は、リーゼントが似合う立派なおっさんになりました。

「最近、夜になると都に鬼が出るらしい」

困っている人を見ると放っておけないサッチ太郎は、白ひげの言葉に鬼退治の旅へ出ることにしました。

「おまえの作るきびだんごは、きっといい仲間を見つけてくれるぞ」

こうしてサッチ太郎は、きびだんごを腰にぶら下げ旅へ出ました。 ある日、一匹の猿がきびだんごめがけて飛び出してきました。

「なぁ変な頭! そのうまそうな団子をくれよ」 「そんな言い方で『はい、どうぞ』って渡すわけねェだろ。このクソ猿」

ひとしきり取っ組み合いをして、エースという名の猿が一緒に行くことになりました。エースは腕っぷしは強いのですが、何しろ猿なのでなかなか言うことを聞いてくれません。どうしたものかと思案していると、突然不死鳥が彼らの目の前に現れました。

「その猿はおれのだ。寄越せよい」 「意味わかんねェよ。そこはきびだんごだろ」 「なになに? あんた空飛べんの? 乗せてくれる?」 「お安いご用だよい」

不死鳥はエースを乗せてあっと言う間に空を飛び、上空を旋回して降りてきました。

「サッチ太郎、こいつマルコって言うんだ。一緒に行くって」

すっかり手ごめにされた猿が不死鳥を紹介します。

「勝手に決めんじゃねェ!」 「しょうがないから、きびだんごも貰ってやるよい」 「渋々かよ!」

こうして一人と一匹と一羽は、鬼が住むという鬼ヶ島へと向かいました。サッチ太郎としては犬も仲間に入れたかったのですが、エース可愛さのあまりにマルコが断固反対し、時には実力行使でお供が増えるのを拒んだので、サッチ太郎は諦めました。 鬼ヶ島へ近づくにつれ、子鬼が増えてきました。そのたびにエースが引っかいたり、マルコがくちばしでつついたり、サッチ太郎が噛みついたりして(犬がいないので仕方ありません)撃退し、一行はとうとう鬼の住処へと到着しました。

「おれの可愛い鬼を倒したのはおまえたちか」

中から出てきたのは、それはそれは美しい鬼でした。髪を結い上げ、切れ長の瞳はきりりと涼やか。白い着物に紺色の袴を身につけた伊達男は、頭に角がついていなければとても悪行の限りを尽くす鬼とは思えません。

「あ。おれ、こいつムリ」

エースはあっさりと白旗を揚げ、降参しました。

「逆らっちゃダメなやつだ」 「おまえは賢いねい。そういうわけだから、あとは頼んだよい」

そう言い残すと、猿と不死鳥はサッチ太郎を置いて、あっと言う間に飛んでいきました。

「おい! ちょっと待てよおまえら!!」

全員でも倒せそうにない相手を一人で倒すだなんて、到底無理な話です。それなりに頑張りましたが、サッチ太郎はこめかみに銃口を突きつけられ、降参するしかありませんでした。

「ああ、これでおれもおしまいか」

鬼はお経を上げるサッチ太郎を一瞥し、住処へ引きずり込み寝床へと転がしました。

「おれの勝ちだ。何をされても文句は言えない」

鬼の好色な視線に、サッチ太郎は背筋がぞっと凍りました。

「じょ、冗談じゃねェ! いっそ殺せよ!」 「それこそ冗談。あんたの噂はここにも伝わっていた。困っている人がいれば助けるんだろう?」 「おまえは困ってないだろ!」 「困ってはないが、寂しい」 「……寂しい?」 「部下は山のようにいるが、家族は誰もいない」 「誰も?」 「生まれた時から、鬼の子と疎まれていた」

節目がちに答える鬼に、サッチ太郎は抵抗の手を緩めました。サッチ太郎には白ひげという大事な家族がいます。オヤジの為ならば、正しくまっとうに生きようと思います。でもこの鬼には、そんな存在がいないのです。

「おれの言うことは皆聞くが、叱ってくれる人はいない。どれだけ悪行を尽くしても、本当に欲しいものは手に入らない」

それなりに楽しく暮らしている身でしたが、鬼はサッチ太郎を手に入れるために一芝居を打ちました。一方、お人よしのサッチ太郎は鬼に強く言うことが出来ません。

「……おまえさんが一番欲しいものは何だ?」 「……家族」

鬼の言葉に、サッチ太郎は胸を打たれました。

「家族が出来たら、もう悪さしないか?」

こうして鬼とサッチ太郎は、家族になりました。何よりの宝物を手にして帰ったサッチ太郎は白ひげに褒められ、新たに白ひげの息子となった鬼と、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。

(おしまい) --------------------------------------------- 2016.8.21(SSC関西21)/2016.9.4(GLC7)無配

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