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執筆者の写真丘咲りうら

グラディートな人生!(11/13)

「ちょっ……、待てって。こら、待ちなさいって。そんな、いきなりとか、ないでしょ?」

 そのまま二階へ行こうと誘うイゾウを、サッチは頑なに拒んだ。

「いいおっさんが何言ってんだ。そんなウブなこと女子高生でも言わねェよ。それとも、やっぱりおれとはセックス出来ねェか?」 「そうじゃねェって。おれも男だし」 「だったらいいじゃねェか」 「や……あのさ、今、すげー朝じゃん?お天道様が見てるってのに、そういうのはなァ」 「寝室は遮光カーテンだ。ついでに言うと、舞いの稽古もするから二階は全室防音完備だ」 「そんな情報いらねェよ!」 「それに、あんたもおれも寝ていない。だからまだ夜の延長だろ?」 「は……!? おまえさんも寝てねェの?」 「あんな後に寝られるわけないだろ。一晩中、作業してたさ。けど運針が乱れるから仕事は出来ねェし、仕方ないからさらしとか襦袢ばっかり縫ってた。おかげで襦袢は売りに行くほど仕立てた。だから上に行こう?」 「最後が意味分かんねェよ」 「仮眠だと思えばいい。あんた、今日は休みだろ?」  徐々に必死さを増してくるイゾウに、サッチは堪えきれず、ぶはっと吹き出した。

「おまえ、おまえさ、何でそんなに必死なの?」 「必死にもなるさ。あんたを抱けるかどうかの瀬戸際だぜ? あんただって、女相手に必死になったことぐらいあるだろ?」 「そりゃあるけどさ。……あ! おまえ、仕事!! 工房は!?」 「そんなもん、『都合により休業致します』だ」 「んだよ、それ。いい加減だな」 「もともとそうだ。暖簾が出てなけりゃ、客は来ないさ」  ああもう、いいから来いと、半ば引きずられるように寝室に連れて行かれ、男二人が乗ってもびくともしない広いベッドにどすんと押し倒された。

「……サッチ」

 組み敷かれた状態で甘く囁かれる。反則なぐらい男前だった。こんな目で見られたら女の子なんてイチコロだろうに、彼が組み敷いているのは、紛れもなくリーゼントが似合うおっさんだ。世の中、絶対間違えてる。

「なァ。ほんっとにしつこいけどさ。おれ、おまえと同じモンが付いてんだぜ? 本当にいいのか?」 「マジでしつけェな。あんたがいいっつってんだろ。それより、あんたこそいいのか? この状態でイヤだっつってもやめないけど」 「やめないなら聞くな! それに……惚れたら付いてたんだよ。しょうがねェだろ!」  半ばヤケクソ気味に喚くサッチにイゾウは暴走したい衝動を必死で抑え、怖がらせないように優しく口付けた。

 額に、鼻に、頬に、そして口に。イゾウの唇がやんわりと触れる。  徐々に熱を持ち始めた動きに、互いの息が上がっていく。首筋に甘く歯を立てられ、行為そのものがご無沙汰だったサッチの腰が跳ねた。

「……ぁ、ま、待て。脱ぐから、自分で脱ぐって」

 ボトムに伸ばされた手をぺちんとはたいて起き上がり、サッチはえいやと服を脱ぎ捨てた。いいおっさんがここまで来て恥らっても仕方がない。男同士なんだし、ここは風呂か何かだ。そう暗示を掛けたが、ゆるりと兆している箇所の下着には手を掛けることが出来なかった。  そんな自分を楽しげに見つめるイゾウを、サッチは「なんだよ」と睨んだ。

「……おまえも脱げよ」 「脱がせてくんねェの?」 「はァ!?」  サッチの反応に、イゾウはクックと楽しそうに笑った。その笑顔は、『グラディート』で見るそれと全く同じだ。 「そういうのもいいなァと思って」 「……勘弁しろよ」  そう言いながらも、サッチはイゾウに手を伸ばし「おら、手ェ上げろ」とスウェットに手を掛けた。そこに色っぽさはなく、どちらかというと子供の服を脱がせるような手つきだったが、やがてイゾウもサッチと同じように肌着1枚の姿になった。 「ん、サンキュ。じゃ、仕切り直しな」 「うぉっ!?」  力強く両腕を取られ、再びベッドに縫い付けられた。先ほどの穏やかな笑顔とは全く違う、獲物を捕まえた獣のような瞳に、「何かおれ、ヤバい気がする」とサッチは若干後悔した。

「……立派だな」  あっけなく最後の"砦"を剥かれ、まじまじと注がれる視線にサッチは虚勢を張った。 「おう、自慢の息子だ。……ここまで誇れねェシチュエーションは初めてだけどな」 「そんなことはないさ。タチでよかったとつくづく思ったぜ。こんなの入る気がしねェ」 「入れる気もねェくせに」 「まァな」 「くそ……いつか絶対、突っ込んでやっからな」 「ふふ。楽しみにしとく」  やんわりと足を開かれ太ももをさすられる感触に、与えられるであろう次の刺激を求めて身体は否応無しに反応した。焦らすことなく自身を握りこまれ、直接的な快感に声が漏れる。ゆるゆると扱かれ、瞬く間に限界が見えた。

「ちょ……っ、やめ……。出、ちまうって」 「出そうとしてんだ、遠慮すんな」  甘い声が耳たぶを食み、頭にダイレクトに官能を吹き込まれる快楽にサッチは呻き、あっけなく達した。

「……随分と濃いな」

 自分の乱れた呼吸の中に聞こえる、冷静なイゾウの声がいたたまれない。 「……うるせェ。ご無沙汰だっつってんだろ」 「オナニーもしてねェの?」 「ばっ……! そんな綺麗な顔してオナニーとか言うんじゃありません!」 「顔の美醜は関係ないだろ。おれだって男さ。あんたをオカズに、何回マス掻いたと思ってんだ」 「もうやめてくれ。こっちが恥ずかしくて死ねる」 「……何それ、たまんねェ。突っ込んでいいか?」 「何でそうなるんだよ……!」

 自分の羞恥を"気持ち悪い"ではなく"恥ずかしい"と表現したサッチに、イゾウは安堵した。ようやく手に入るという実感に、頭も身体も火照る。抵抗するサッチをあっさりと裏返し、サイドボードの引き出しに忍ばせてあったローションをさりげなく手にし、開封した。

「……随分と、用意周到なこって」 「男だからな。こんなこともあろうかと」 「……くそ、やっぱりこっぴどく振ってやりゃ良かった」  毒づくサッチにくすりと笑い、ローションを落とした指先を尻の間に滑らせた。反射的に身体を強張らせるサッチの背に優しくキスを落とす。

「いきなり突っ込むほどおれは鬼畜じゃねェよ。けど」

 ここは触ってもらったことあるよなァと、ソコにそろりと指を1本忍び込ませた。

「……ぁっ、ちょっ……ま、」 「待たねェ」  ゆっくりと埋め込まれ、サッチはのけぞった。 「あんだけ"お姉ちゃん"のとこに足繁く通っといて、ココに指も入れてもらったことねェとかは、ないよな?」  断言するイゾウに、悔しいがサッチは反論出来なかった。確かに"お姉ちゃん"のお店によってはそういうサービスもあるし、経験がないとは言わない。だが、いくらイゾウが女装が似合うと言っても、手は男性のそれだ。こんなゴツい指を突っ込まれたことはない。それに、

「……あ、んまりスキじゃねェから、何回かヤってもらったあとは、断って……ぅあっ!!」

 バカ正直に答えるサッチにイゾウは吹き出しそうになるのを堪え、さらに奥へと指を進めた。 「そうか。けどあんたには、ココでヨくなってもらわないとなァ」  口調こそ穏やかだが、征服欲を含んだ声音にサッチはたまらず振り返り、イゾウを睨んだ。 「お、まえ……っ!! キャラ変わりすぎだろ!!」 「そうか? ……そうかもな。けど、残念ながらこっちが地だ」  ニィ、と笑む顔は、まさに捕食者のそれ。

「な……っ!! 騙された! 詐欺よ詐欺! このいい男詐欺!!」 「何だよ、いい男詐欺って。もう諦めろ。あと……あんたは気付いてないみたいだけど、断ったのは"好きじゃない"じゃなくて、"ハマりそう"だったから、だろ? おれとしては、踏みとどまってくれて都合が良かった」 「あぁ……っ!!」  狙いすますようにそのポイントを突かれてサッチはあられもない声をあげ、慌てて口を塞いだ。しかし容赦なく抉られる刺激に声は漏れ、本人の意思とは関係なく腰が揺れた。

「く……っ、ふ……ぅあ……っ!」

「すっげ、いい声。絶対ヨくしてあげるから……楽しんで、サッチ」

 甘いテノールは、悪魔の囁きだった。

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