立て膝の間からちらちらと見えるそれは、計算し尽くされた角度でサッチの意識を捉えて離さない。独特の仕立てをしている肌着はぴたりと密着してそこを守っているが、明らかに普段とは違う形を呈していた。じわりと質量を上げていくそれから、目が離せない。そんなサッチを嘲笑うかのように、イゾウは足はそのままに手を伸ばしてベッドサイドのチェストを開けた。そこから出したボトルをしげしげと眺め、言った。
「随分減ってるじゃねェか」
彼が遠征に行く前には満タンだったボトルの中身は、残り僅かだ。
「……うっせーよ」
ボトルの蓋を開け慣れた手つきで逆さにすると、粘度が高いそれは重力に逆らうことなく全てイゾウの手に落とされる。空になったボトルを床へ投げてぬめる右手を見せつけるように蠢かせ、そのまま胡坐をかいて開かれた着物の裾へと滑らせた。肌着の布の色が変わり、その中に収められている物の形をくっきりと映し出す。どちらからともなく、はぁっ、と熱い息が漏れた。
「ろくに睡眠も摂れない中の作戦で、たまに寝床に就けた時だって全然眠れやしなかった。その代わりここだけこんなになって。種族維持本能ってヤツか」
「……女でも抱けばよかったじゃねェか。何度か上陸もしただろ」
色を好むイゾウは、サッチとこういう仲になってからも時折女を抱いていた。そのくせサッチが同じように花街へ繰り出すと烈火の如く怒りだすのだから始末に負えない。
イゾウの左手が腰に回り、ねじりこんで巻いていた紐を緩めると、十分な質量を持ったそれが窮屈な布からまろび出た。ぬらぬらと光る艶やかさはサーベルというよりは刀のそれで、イゾウの右手によってさらに硬度を増していく。
「おれは、あんたにブチこみてェんだよ」
恥じらう素振りなど一切見せない熱い目が、まっすぐにこちらを見る。ああ、この男は視線でも焼き切ろうというのか。
手の動きは止まらない。透明だったぬめりが、薄く濁り始めた。徐々に早くなる動きと荒い息づかいに、自然とサッチの心拍数も上がる。清廉潔白な彼の痴態を目の前で見せられて、平静でいる方が無理だ。
「おれがどんだけあんたに恋い焦がれてるか、あんたは知らないだろう」
狡い男だ。人をここまでがんじがらめにしておいて、気の向いた時だけ甘い言葉を投げつける。狡猾で、不遜で、自分勝手で、美しい男は、ただただサッチを欲していた。
「なァ、サッチ……。おれには、あんたしかいないんだ」
「……だったら、ウダウダ考えてねェでもっと欲しがれよ。釣られた魚にだって、それなりにプライドがあるんだからよ」
差し伸べられた手を断る理由なんて、この広い海のどこを探しても見あたらなかった。
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「……すげェ、高くついた」
「何がだよ」
「お代だよ、お代。タダより高いモンはないって本当だな」
朝なのに疲労困憊のサッチは、何とか身体を起こした。くそぅ。よりによって早番とはツイてない。一方のイゾウは、旅の疲れはどこへやらといった風情でゆるりとキセルを燻らせている。
自分の手で達したイゾウは、サッチに「おれだけなんて不公平だよなァ?」と新しいローションのボトルを開封して手渡し、そのままショーを鑑賞した。もっとも、サッチのオナニーはイゾウのそれとは違い随分と上級者向けであったわけだが。そのあとはなし崩しのセックスだ。ドロドロになるまで互いを貪り合い、やっと満足して離れた頃にはうっすらと空が白んでいた。
「おれのオナニーが見れるなんて、あんたは果報者だぜ?」
「……へいへい」
もはや反論する気力もない。そんなサッチを見て、イゾウは上機嫌に笑った。
「なァ、あんた今日は早番だろ? 今晩もう1回戦やろうぜ」
「もうサッチさんのミルクタンクは空っぽだっての! おまえだって空だろ」
「今から寝るから、夜には回復するさ。若いからな」
そういうとイゾウは始末したキセルをチェストに起き、シーツを替えたサッチのベッドにごろりと横になった。
「飯は持ってきてくれ。軽いものでいいぞ」
「だァれが持ってくるかよ。バーカ」
バタンと閉めたドアの音に、イゾウはまた肩を揺らして笑った。
「ったく。とんだワガママ隊長様だ」
腰をかばいながら厨房へ入ると、昨晩早く寝かせた部下たちがせっせと朝食を作っている。ぐるりと見まわしてあたりをつけ、声をかけた。
「よォ、おはようさん。悪ィが場所貸してくれ」
あの様子だと、まだ酒が残っている。二日酔いには米を潰して作ったスープが一番だ。
釣った魚がエサを持っていくなんて本末転倒だなとサッチは1人笑い、我儘な恋人に最高の朝食を提供する作業に取り掛かった。
(おわり)
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