サッチは、最初からイゾウと積極的に付き合おうと思っていたわけではない。アプローチはこの美しい男からで、「あんたに惚れた。抱きたいと思ってる」と直球にもほどがある口説き文句でサッチに迫った。同じ男で寝食を共にする家族であり、隊長として背中を預ける彼と恋仲になることで、今まで保たれていた何かの均衡が崩れてしまうことをサッチは危惧し、一度は拒絶した。だが隊長という重責を担う彼がそんなことで引き下がるはずがなく、結局すったもんだの末二人は付き合うことになった。明日をも知れない海賊稼業で好き勝手に生きてきたサッチにとって、まさか男の伴侶を持つことになるなんて思ってもいなかった。
「……ひっ! おい! やめ、ろ!」
躊躇なくアナルに舌を這わせるイゾウの片割れに、サッチは身を捩り抵抗した。体格はサッチの方が圧倒的に大きいので、イゾウを引き剥がすのは簡単だ。しかし今日はイゾウが二人いる。彼とてサッチより華奢とはいえどもれっきとした海の男。二人がかりとなれば、サッチを組み伏せるのは簡単だった。
「んっ! ばっ、おい! シャレにならねェって!」
「煩い口だな」
舌技を施していない方が唸り、指を二本サッチの口に突っ込む。口腔の敏感な箇所をグジュグジュを抉ってやると、腰がぶるりと震えた。
「誰よりも快楽に弱いくせに家族とそういう仲になるつもりはないだなんて、よく言えたもんだよなァ」
「まったくだ。いつマルコに取られるかとヒヤヒヤした」
尻の向こうから聞こえる相槌に、サッチは「おまえら、何考えてんだよ!」とイゾウの指を咥えたまま無力な抗議をする。
「大体、マルコはエースにゾッコンじゃねェかよ」
「エースが来る前の話さ。あんた、明らかにマルコを狙ってた時期があっただろう」
「あの時は参ったな。マジで撃ち殺して自分だけのものにしてやろうかとも思ったが」
「仲間殺しは大罪」
「だから思い留まった」
サッチはリアルに自身のタマが縮み上がるのを感じた。自分の知らぬところでイゾウにそんな葛藤があったとは。過ぎたこととはいえど、知らなくてよかったと心底胸をなで下ろす。
「あ、れは、なんつーか、ノリっつーかなんつーか。な? 大体あの朴念仁がそんな簡単に靡くわけねェじゃん」
「じゃぁ、おれたちともノリか?」
何と面倒くさい男たちなのだろう。どう答えれば正解なのかさっぱり分からない。
「何でノリで野郎に尻を明け渡した上に3Pなんてやらなきゃいけねェんだよ。ていうか、おじさん、もう年なんだからノーマルで十分なんですけど!?」
「そう遠慮するな」
「年を取らないと理解できない経験もあるだろう」
無駄話は終いだと前のイゾウが囁き、それと同時に背後にいたイゾウが熱く硬い怒張がサッチのアナルを犯した。
「ぐぁ……っ! ん……!」
「……いつもよりキツい」
「感じてンだろ」
そういうイゾウのイチモツこそいつもより硬度があるのだが、あいにく今のサッチには言い返す。緩やかに始まった律動に、悲鳴にも似た嬌声が上がる。
「せっかく二人いるから、アレやりたいよな」
「二輪挿し」
「男のロマンだ」
息がぴったり合った会話にサッチが入る余地はない。そんなことをされたらおれのかわいいケツ穴が壊れる! 必死に首を横に振って拒絶をあらわすサッチの顎ひげを、イゾウがうっとりと撫でた。
「使い物にならなくなったらおれもあんたも困るから、こっちのアナで我慢するさ」
やや強引に口に突き入れられた剛直は、これ以上ないほどに張りつめていた。
「サッチ……」
「おれたちには、あんただけだ」
普段クールなイゾウここまでなりふり構わずぶつけてくるのは、いつもサッチに対してだけだ。この男の我儘はどうしようもない。彼らの重過ぎる愛情を、サッチは甘んじて受け入れた。
翌朝。腰と顎がギシギシと痛む最悪の目覚めを迎え、サッチはため息を吐いた。海域を抜けるまで、まだ数日あったはずだ。昨日までは十六番隊隊員の心配ばかりをしていたが、これが毎夜続くとなるとさすがに命の危機を感じる。今日もオフだったらよかったのにとある意味海賊らしいことを思いながら、サッチはベッドから降りた。
「おはよう」
「はよ……。んん?」
すぐ横のテーブルで、イゾウが茶を啜っている。そこにいるはずの彼が、一人に減っていた。
「あ……れ? 一人、か?」
「ああ。起きたら一人になってた」
昨日までは至極当たり前だったことをサッチは問い、イゾウの答えに「……そっかァ」と間抜けに反応した。
「ってことは、海域を抜けたのか?」
「航海士に確認したが、まだだ。ペースが上がってるとはいえ、あと丸一日は海域の中らしい」
それなのになぜ『呪い』が解けたのかが分からない。しかし元に戻ったのならそれはそれでよかったとサッチは安堵した。
「もう一晩ぐらいなら、相棒がいてもおもしろかったんだが」
「勘弁してくれ。隊員と酒蔵とおれが死ぬ」
「ふふ。まァなかなか出来ない体験で面白かった」
満足そうに茶を飲むイゾウのなんと美しことか。心身ともに満たされる姿を体現している彼に見とれてしまったことは、しばらく秘密にしておこう。
「……あー。じゃぁまァ、働きますか」
痛む腰を庇いながらドア横の洗面所へ行くと、外の廊下から末っ子の叫び声が聞こえた。
「エース?」
すわ侵入者かと慌ててドアを開けたサッチに飛び込んできたのは、マルコの部屋の前で派手に尻もちをついたエースだった。
「マルコが……マルコが、二人いる!!」
何ともご愁傷サマなことだ。
ここはグランドラインのど真ん中。どんなことが起きても不思議ではない。サッチは明日早番が当たっているエースと交代してやろうと密かに思い、「ま、頑張れよ」と声をかけて自室のドアを閉めた。
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