散々喘がされて、もう声なんて出ない。ぜいぜいと肩で息をするサッチの中から、ようやくイゾウは埋め込んでいた指を抜いた。浮かしていた腰をべしゃんとベッドに落とす。腹がベトつくのは、きっと散々垂らされたローションだ。自分の体液とかでは、決してない。
「大丈夫か?」
自分を気遣うイゾウに、息も絶え絶えになりながら反論した。
「苛めてる、張本人が、聞くか?」
「人聞きが悪いな。あんたも楽しんでるだろ?」
ぐぅと答えに詰まる。確かにサッチも嫌々付き合っているわけではない。イゾウの唇が肩口に優しく降りてくるが、その息は熱く荒い。
「なァ、もう限界。……入れていいか?」
「……いちいち聞くなっつってんだろ」
じゃぁ遠慮なく、と、イゾウはゴムを取り出し装着した。慣れた手つきでローションをなじませる姿に、他の相手ともこんなにスムーズにコトを進めていたんだろうかと思うとあまりいい気分ではなかったが、それはお互い様だろう。自分だって、数ヶ月前まではイゾウの立場だったはずだ。相手は可愛いお姉ちゃんだったけれども。それが何でこんなことになったのか。おそらくその答えは一生出ない。
「おまたせ。……腰、上げれるか?」
そのまま後背位で挿入しようとしているイゾウに、サッチは躊躇した。
「待ってねェし。ていうかちょっと待て。おまえ、この格好で入れる気かよ」
ぬるりと当てられた切っ先が埋め込まれそうになるのを、サッチは必死で抵抗した。
「だ……っ!! 待てって! だから! 後ろから……かよっ!」
「……は? 後ろからの方があんたが楽なんだよ。だから」
「しょっぱなに! こんな、誰とヤってるか分かんねェ格好でヤるんなら、……二度目はねェからな!」
しばし逡巡し、サッチの意思を読み取ったイゾウは「……んだよ、このおっさん。たまんないんだけど」と呟き、ころんとサッチを仰向けに転がした。
見上げたイゾウは、これ以上ないほど雄の顔をしていた。こんなにも男らしいのに、和服姿の彼は本当にベッピンだ。何故気付かなかったのだろうと思ったが、相手はプロだ。見抜けなかったのは、きっと自分のせいじゃない。
「……何見てんだよ」
一向に先に進まないイゾウに、サッチは焦れた。顔が見えてしまったのがいけなかったのだろうかと少し後悔した。
「だって、足震えてるし」
どうやらサッチを気遣っての中断らしい。眉根が切なそうに寄っている。それが"お預け状態"だということは、同じ男であるサッチにもよく分かった。
「……バージンを失う女の子の気持ちがよく分かるぜ」
「そりゃ貴重な経験だな。ロストバージンってのは1回こっきりだから、よく頭に刻んどけばいい」
「鬼畜すぎんだろ」
ちらりと腹の方に視線をやると、自分の足を抱えて乗り上げた状態で、イゾウのペニスが今にもはちきれそうにその時を待っていた。ぬらりと光るそのカタチがたまらなく卑猥だが、自慢の息子ほどではないにしても十分に質量のあるそれに、サッチはさすがにビビった。
「……なァ。やっぱ、入らねェんじゃ、ね?」
自分がその立場になって初めて、こんなモノを何なく(じゃないときもあったが)受け入れていた女の子たちを心の底から尊敬した。そして冷静に考えれば考えるほど、そういう構造になっていない自分の尻に、アレがおさまるとは到底思えない。
しかしイゾウの答えは、サッチの複雑な思考など知らないとあっけらかんとしていた。
「何とかなるものさ」
「……それは、突っ込まれた経験があっての体験談か?」
「いいや?」
「おまえね」
「なァ、サッチ。これ以上焦らさねェでくれ。ガキみたいに暴発しちまいそうなんだ。早く入れてェ」
「おーおー。いっそ突っ込む前に暴発しやがれ。一生引き合いに出して笑ってやるよ」
「……ったく。口数の減らねェおっさんだな」
「これぐらいの恨み節ぐらい言わせろってんだ。おまえの、おまえのせいでおれは……!」
何かもう、色々ぐしゃぐしゃでかっこ悪い。こみ上げてくる何かを必死に抑えながら、サッチはイゾウにしがみ付いた。
「はいはい、全部おれのせいでいいから。な? 力抜いてくれ。これじゃぁ、入るモンも入らねェ」
くすくすと笑いながら宥められる情けなさったらない。だが、イゾウだからこそ、サッチはここまで弱みを曝け出せる。
これからの行為がサッチに相当な無茶をさせることは、イゾウにも重々分かっていた。しかしそれでも、この男が欲しかった。この臆病で優しい男の全てを、自分だけのものにしたい。
イゾウは覚悟を決めて持っていた足を抱え上げ直し、サッチのアナルにゆっくりと自身を沈めた。
「……はっ、あ、ぐ……っ」
想像以上の圧迫感にサッチの声が詰まる。
「声、出して……っ、息吐いて」
「む……り、だって……ぐぁっ!!」
「大丈夫……っ。ほ、ら。……ん、入……った」
ずぐりと内臓を押しつぶされるような感覚と同時にイゾウの苦しそうな声が聞こえた。呼吸の仕方を忘れたかのように、口だけがぱくぱくと浅く酸素を求める。遠慮なくイゾウの綺麗な背に爪を立て、必死に息をしようともがいた。
「……っは! あ……ふっ……ぅ」
「……ん、上手。そのまま深呼吸して。吸って、吐いて、……そう」
どうにかして詰めていた息を吐き出し、言葉どおりに呼吸を繰り返す。酸素不足でブラックアウトしかけていた意識が戻り、ようやく全身に酸素が行き渡った感覚にほぅと息を吐いた。自分の呼吸とイゾウの呼吸がシンクロしている。その心地よさにそっと目を開けた。そこには、心配そうだが行為をやめる気はさらさらないらしいイゾウの苦しそうな顔があり、瞳が「どうした?」と問いかけている
「……いい男、だなァ」
掠れた言葉が口から勝手に零れた。
「……ふふ、そりゃどうも。全部あんたのモンだ」
「ヒヒっ。……悪かねェな」
傷つけたであろう背中をそっと撫で、首の後ろに手を回した。
「ほら、もう大丈夫だから……よ。動いてとっととイっちまえ」
軽口を叩いて促すが、本音は出来ればもうしばらく、このぬくもりを感じていたい。しかし、それを言うのは年上のプライドが邪魔をした。それを知ってか知らずか、イゾウが耳元で甘く囁いた。
「冗談。せっかく入れたんだ。意地でもイカねェよ」
「……ったく、おまえはよォ」
意地っ張りはお互い様らしい。サッチはそのままイゾウの頭を抱え込み、今度こそ全てを預けた。
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